第94回 フィリピンにおける労働組織

皆さん、こんにちは。Poblacionです。フィリピン国内で事業を行う外国企業にとって、高い労働意欲を持ち、有能であり、さらに英語も堪能であるフィリピン人は、高く評価されていることが多いでしょう。ただ、フィリピンでの雇用をお考えの際には、フィリピンの労働法が非常に厳格であることを認識しておく必要があります。フィリピンの労働法上、雇用主は、内国企業であるか外国企業であるかにかかわらず、従業員に対して最低限の賃金と、法律で義務付けられたその他の給付を与えなければなりません。さらに、自己組織化権/労働組合加入権を含む従業員の権利も尊重する必要があります。

原則として、フィリピンの従業員全てには、自己組織化権、並びに団体交渉又は相互的な支援及び、保護のために自ら選択する労働団体を設立し、これに加入し、これを支援する権利があります。これはまさに、フィリピン憲法によって保証された権利です。

労働団体への加入という観点から、従業員は、以下の3つのグループに分けられます。

(a)一般従業員
(b)管理職従業員
(c)経営陣及び機密情報取扱従業員

・一般従業員は、一般従業員のために設立された労働団体のいずれにも、自由に加入し活動することができます。

・管理職従業員(すなわち、製造プラントにおける現場監督者や通常のオフィスにおける事務監督者)は、管理職従業員のための労働団体には加入できますが、一般従業員のために設立された労働団体には加入できません。一般従業員と管理職従業員とでは、利害の不一致があるためです。

・原則の例外として、経営陣(すなわち、最高レベルの管理職)及び機密情報取扱従業員(すなわち、労務関連の秘密情報にアクセスできる人事部門スタッフ等の従業員)には、労働団体を設立したり、これに加入したり、これを支援したりすることは認められていません。これらの者と会社との結びつきを踏まえて、利益相反を回避するためです。これらの者が有する地位や会社の秘密情報に関する知識が利用された場合、労働組合や会社に不利益がもたらされるおそれもあります。

では、フィリピンで働く外国人労働者についてはどうなっているでしょうか。有効な就労ビザを保有している管理職従業員や一般従業員には、労働団体への加入が認められています。ただし、これらの外国人労働者の本国で、フィリピン人労働者にも同様の権利が認められており、外務省によるその旨の証明があることが条件です。

労働団体のフィリピン労働雇用省への登録は任意ですが、登録を受けた労働団体のみが、団体交渉(他の従業員に代わって賃金及びその他雇用上の給付について雇用主と交渉すること)を行う権利等、特別な権利を与えられます。

従業員が有する自己組織化権の侵害は、「不当労働行為」とみなされ、かかる行為を理由に雇用主が民事上及び刑事上の責任を負わされる可能性もあります。また、このような侵害について責任を負う会社役員が懲役刑に科されることもあります。従いまして、フィリピンの雇用主は、従業員が労働団体を設立したり、これに加入したりするのを妨げることはできず、労働組合員を差別したり、特定の組合を他の組合より優遇したりすることもできません。一方、雇用主が、労働団体とクローズドショップ協定、すなわち、新規従業員に対して雇用の条件として労働団体に継続加入する義務を負わせる協定、を締結することは認められています。

労働組合という言葉は、もしかすると、フィリピンの雇用主にとって恐ろしく聞こえるかもしれません。しかし、ご心配には及びません。雇用主が、従業員を正当に扱い、彼らの権利を尊重し、彼らが権利を有する給付を与えている限りは、会社に労働組合があろうとなかろうと、調和のとれた労働環境となることでしょう。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。 また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。 フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。