第191回 民事訴訟法の改正

善意の第三者を保護するため、現行の民事訴訟法第254条第5項では、原告が民事訴訟を提起しており、かつ被告の特定不動産が訴訟の対象となっている場合、原告は裁判所に対し、当該不動産について訴訟が提起されている旨の証明を発行するよう申請し、またこれにより地政機関に注記するよう要求し、第三者に当該不動産が訴訟の対象となっていることについて注意を喚起することができると規定されている。

しかし、悪意のある者がこの制度を利用して民事訴訟をみだりに提起し、他人の不動産に好き勝手に注記を加えることにより、当該不動産に買い手が付かないという事態を生じさせ、他人の財産権に損害を与えていた。

そこで、立法院は2017年5月26日の最終可決(三読)において、民事訴訟法第254条、民事訴訟法施行法第4条の5および第12条の改正案を可決し、原告は裁判所に対し訴訟係属についての登記申請を提出することができるが、その場合その趣旨を釈明し、かつ裁判所が申請について決定書を作成する際も、訴訟に関する原因・事実を記載しなければならないと明示的に定めた。

具体的には、改正された民事訴訟法第254条第6項で、次のように規定されている。

原告は訴訟係属についての登記申請を提出する場合、その趣旨を釈明しなければならず、その釈明が不十分である場合、裁判所はその者に対し相当の担保を差し出すよう要求することができる。裁判所が原告の申請について決定書を作成する場合は、訴訟に関する原因事実を記載しなければならない。

これにより、今後は悪意のある者がみだりに訴訟を提起することによって、他人の財産権をむやみに侵害するという事態は避けられるようになると考えられる。

なお、上記改正後には、訴訟が提起されている旨の証明書は発行できなくなるが、改正前に発行された証明書は有効とされる。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。