第6回 懲罰的損害賠償

みなさん、こんにちは。黒田日本外国法律事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

日本プロ野球は、日本シリーズは激闘の末、楽天の勝利で幕を下ろしました。侍JAPANに続き、楽天もアジアシリーズ(中国語では「亞洲職棒大賽」)で台湾にやってきますので、野球ファンにとっては楽しみですよね〜。

さて、本日は、台湾の懲罰的損害賠償について紹介してみようと思います。

そもそも「懲罰的損害賠償」とは、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償まで認めることを内容とします。実際に発生した損害以上の賠償責任を、損害を発生させた者が負わなければならないわけで、厳しい規定といえば厳しい規定ですよね。過去の有名な事案としては、ホットコーヒーをこぼして火傷を負った被害者に対してアメリカのマクドナルドが負った懲罰的損害賠償責任の例があり、皆さまの中にも耳にされた方がおられるかもしれません。

アメリカとは異なり、日本では法律上、このような懲罰的損害賠償を認める規定はありません。また、日本の最高裁も、懲罰的損害賠償を認めた外国判決について、懲罰的損害賠償の部分につき、「我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しないものといわなければならない」との判決を下しております。

これに対し、台湾では法律上、明文で懲罰的損害賠償についての定めがあります。

消費者保護法第51条がそれで、「本法に基づき提起した訴訟は、企業経営者の故意によりもたらされた損害の場合、消費者は損害額の3倍以下である懲罰的賠償金を請求することができる。過失によりもたらされた損害の場合、損害額の1倍以下である懲罰的賠償金を請求することができる。」とされています。

具体的には、食品会社の経営者の故意、過失により賞味期限切れの原材料が使用された食品が流通した結果、この食品を食べた消費者が入院したようなケースにおける損害賠償などが例として考えられます。

他にも、法文上、明確に「懲罰的賠償」と規定されているわけではないですが、故意責任の場合に賠償額を加重する定めがいくつか置かれており、具体的には公平取引法で「裁判所は、事業者の故意の行為である場合、前条の被害者(加害者の公平取引法違反により損害を受けた者)の請求により、侵害の情状に基づき、損害額以上の賠償を決定することができる。但し、既に証明済みの損害額の三倍を超えてはならない。」とされています。

実際の例としは、事業者が商品若しくはその広告において商品の品質、内容、有効期限、原産地等について、虚偽の表示や他者を誤認させる表示をしたことにより、他者が損害を被ったケースが考えられ、最近、話題の大統の事件などは、まさに虚偽表示を行っていたと言えますね〜。

そのほか、営業秘密法や特許法、著作権法に同趣旨の規定があり、営業秘密法と特許法では損害額の3倍、著作権法では賠償額は100万新台湾ドルという範囲まで損害賠償が認められています。

これらの規定から、台湾では、一定の場合の故意犯に対し、日本よりも厳しく処罰する法制度が採られているといえます。実際に故意犯に対する効果があり、法律違反が減るのであれば、日本も参考にできそうです。日本でも飲酒運転の厳罰化により、飲酒事故はすごい勢いで減ったという事実もありますし、懲罰的損害賠償を本格的に議論する時期に来ているのかもしれないですね〜。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。