第72回 賃上げのための法律改正案

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

4月の声を聞き、天気のよい日は日差しが心地よく感じます(もう既に、「まぶしすぎ」という方もおられるかもしれませんが・・・)。先日も短パンでゴルフをしたのですが、日焼け止めを塗っていない足はすっかり焼けちゃいましたね。話は変わって、日本ではプロ野球の新しいシーズンが始まり、広島カープの黒田投手が久々の日本球界復帰登板を白星で飾りました。

私は残念ながらリアルタイムで見ることができなかったのですが、個人的にとても嬉しいニュースでしたね〜。広島カープに復帰してくれただけで、ファンとしては感涙ものなのですが、今後もアクシデントなく活躍してもらえればと心から思います。

さて、本日のコラムですが、最近、立法院経済委員会で可決されたことがニュースにもなっておりました4つの賃上げのための法律改正案(中文では「加薪四法」)について取り上げてみたいと思います。

4つの賃上げのための法律改正案のうち、工場法と労働基準法の改正案については株式を上場している会社などが対象とされていることから、ここでは取り上げません。

残りの2つのうち、まず会社法の改正案ですが、「会社は定款において、当年度の利益獲得状況から決定した定額又は比率を明記することをもって、従業員に報酬を分配しなければならない」という規定が追加されるようです。もともと、会社法において、従業員へのボーナスの分配義務を定めた「定款において従業員に対する特別配当の比率を明記しなければならない。」という日本にはないユニークな規定が会社法にはあったのですが、さらに従業員に対して会社の利益を還元する内容の法律改正が行われる可能性が高いようです。もちろん、当該改正についても日本では存在しない法規であります。

なお、以前からある「業員に対する特別配当の比率」を定款に記載する義務ですが、比率自体については会社が自由に決定でき、特に「何パーセントにしなければならない」と法律上、決められているわけではなく、会社は「0.01%」というような低い比率を定款に規定することで、ある程度、経営の自由度を確保できました。今回の追加規定の内容についても、報道を見る限り、罰則規定はないとのことなので、会社にとっては努力義務に過ぎないともいえるかもしれません。

もう一つの改正案は中小企業発展条例に関するもので、一定の条件下で、会社組織の基本層である台湾籍の現職従業員に対して給与を割り増しして支払った会社に対して、租税上の優遇を認めるという内容になっております。租税上の優遇を認めることで、従業員の賃上げを図る目的は理解できますが、会社の業績は変動する以上、業績が悪化した場合に備えて慎重な対応をする会社も多いと思われるところ、どの程度、実効性のある改正なのかなぁという気もいたします。

これら4つの改正案については、まだ行政院から異議が出される可能性もありますが、公布された場合には定款の修正を行うことを含め、皆様の会社としても対応を検討する必要があると考えますので、ご注意くださいね〜。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。