第81回 教師の注意義務について

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の外国法事務律師の佐田友です。

台湾に駐在されている日本人の方が買い物をする場合、日々のこまごまとした買い物はコンビニで、週末のまとめ買いはチェーン展開しているスーパーなどでされることが多いと思います。これに対して、台湾の庶民はまだまだ近所の市場で買い物をされる比率が結構高いんじゃないでしょうか。市場はぱっと見、猥雑な感じで近寄りにくいかもしれませんが、台湾の市場は比較的清潔な印象です。

旬のフルーツなどを購入するのもよいですし、どんなものが売られているのか見ているだけでも楽しいですよ。ただ、気をつけないといけないのは、すべての市場ではないですが、バイクに乗ったまま買い物をする人が結構いるんですよね〜。確かに乗ってる方はラクチンなんでしょうが、歩行者からしたら危なっかしくて困りもんです。バイクが庶民の足になっている台湾ならではの話しですが、できれば市場は歩行者専用にしてもらいたいというのが、私のささやかな願いです。

先月末に台北の小学校で痛ましい事件が起きました。報道によれば、学校に侵入した男性により、8歳の女児が首を二度、刺され、病院に運ばれ治療を受けたけれども残念ながら亡くなったという事件です。容疑者の責任能力に疑いがあり、裁判によって容疑者に殺人罪が成立したとしても処罰されるかどうか不明な案件であり、報道を見る限り、この点をとらえて「容疑者を死刑に処すべきである」という意見も出てきているようです(現在の法律上、責任能力がない者を処罰することができないのは台湾でも同じです)。

この事件で、他に議論されていてもおかしくないのになぜかあまり話題になっていないように感じるのが、教師など学校側の責任です。台湾では、放課後など、地域の方が運動などをするために学校に比較的自由に出入りできることもあり、放課後の事故についての教師の「安全保護のための注意義務」が非常に制限的にしか認められないのかもしれません。

日本では、池田小の事件などもあって、学校へ関係者以外の者が入ることが難しくなっているのが現状です。「学校は地域に開かれた場所であってほしい」と個人的には思っていますが、台湾の現状が今回の事件によって日本のように変更されるのも、子どもの安全を考えた場合、やむを得ない流れなのかもしれませんね。

ちなみに、日本で国公立の小学校で今回と同様の事件が起きれば、被害者の親は国家賠償法に基づき、教師の注意義務の懈怠を理由に、学校設置者(市町村など)を相手に損害賠償責任を追及することが予想されます。このような事件が過去にもあった日本であれば、請求が認められる可能性も十分にあると思います。

一方で、台湾においては、今回の事件のようなケースにおいて、実務上、小学校の教師は基本的に公務員としては扱われず、国家賠償法に基づく公務員の責任が認められる可能性は低いと同僚から聞きました。とすれば、教師個人によほど明確に過失などが無い限り、教師個人の責任が認められることはないでしょうから、被害者側としては結局、犯人にしか損害賠償請求できないということになってしまう可能性もありますね。

今回の事件は、MRT(都市交通システム)での無差別殺人事件に続き、台湾社会に大きな衝撃を与えた事件として、記憶されることでしょう。このような痛ましい事件は二度と起きてほしくないものです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。