第123回 死刑廃止について

皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の佐田友です。

少し前に、宜蘭県の礁渓温泉に出かけました。基本的にのんびり温泉を楽しみ、ゆっくりしたのですが、少々食べ過ぎでしたので、風景とおいしい空気を楽しみつつ、カロリーを消費したいと思って、ジョギングに出掛けました。宿泊したホテルの近くに、「跑馬古道」という場所があり、その入り口に向かって、緩やかな登り道を上がっていくと、途中に、物見の壕(ごう)がありました。既に植物が繁茂していて自然と一体化している感じで、廃墟マニアの気持ちが少しは分かる私も思わず見入ってしまいました(長崎の軍艦島にはいつか行きたいです、はい)。「跑馬古道」に入るまさにその辺りで引き返し、雨が強くなり雷も鳴ったので今回は「跑馬古道」の雰囲気の一端しか感じられませんでしたが、いつかまた訪ねてみたいと思いました。地図によれば、その「跑馬古道」には日本統治時代の派出所の遺構があるらしいです。こういう古いものがお好きな人は移動がそれなりに大変ですが楽しめると思いますよ~。

死刑廃止で集会

先週末、総統府の近くをタクシーで通ったときに、多くの人が集まっていました。何事かと眺めてみると、「死刑廃止反対」についての集会が行われていたんです。背景としては、現在の立法院で多数を占める民進党が死刑廃止を目指しているということがあるようで、その流れを止めたいと考える方たちが集会を企画されたようです。

このような集会が行われたもう一つのきっかけとして、まだ記憶に新しい、わずか4歳の女児が惨殺されるという事件が台北で起きたことがあると推測いたします。このニュースは大きく取り上げられたので、皆さんご存じだと思いますが、非常に痛ましい事件で、二度とこのような悲劇が繰り返されないことを心から願います。

もっとも、このような事件を防ぐのに死刑が有効であるかというと簡単にそうだとは言えないですよね。今回の事件の加害者とされる者は、報道によれば、警察の調べに「四川省の女児を殺せば血統を継げる」などと意味不明の証言をしているとのことで、どのような厳しい処罰が法律上規定されていたとしても、今回の事件が防げたわけではないように思われます。

児童殺害に原則死刑提案も

では、何のために、今、「死刑を廃止すべきではない」と思う人が立ち上がっているのでしょうか。もちろん、死刑があることで犯罪を思いとどまらせる一定の効果もあるはずで、この効果に期待したいという思いもあるでしょう。ただ、この思いだけではなく、「若い命を奪うような輩は死をもって償うべきだ」という素朴な処罰感情が存在しているのではないでしょうか(台湾で生活していると、子どもは未来を担う主役として台湾人の方から非常に大切にされているという印象があります)。

死刑を廃止すべきかどうかは本当に難しく、簡単に結論の出る問題ではありません。ただ、台湾では最近、12歳未満の児童を殺害した場合、原則として死刑とし、無期懲役の場合も仮釈放を認めない刑法改正案を立法院(国会)に提出している立法委員がいるとのこと。民進党の立場とは全く異なる、死刑廃止に逆行する動きですが、前述の事件をきっかけとして、民進党が大衆の支持を得られると考えて、この法案の成立賛成に回ったりしないですかね~。ちなみに、日本には以前、父母、祖父母等の尊属を殺害した場合に「死刑または無期懲役に処す」という殺人罪の特別規定が存在していましたが、その法定刑が立法目的達成のための必要な限度をはるかに超え、法の下の平等を定める憲法の規定に違反しているとして無効という判決が下された歴史があります(その条項は結局、削除されました)。立法の目的が未来を担う子どもを守るというものであれば、日本でも許容されるでしょうか。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 佐田友 浩樹 (黒田日本外国法事務律師事務所 外国法事務律師)

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日・中・英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。