騒音に対する刑事罰

最近台湾では、台中市のある女性が2017年2月から2019年3月まで2年もの長い間、夜遅くに鉄の門、壁、バケツをたたく、痰を吐くなどして騒音を立て、近隣住民に不眠、頭痛、イライラといった症状を引き起こしたとして、数名の近隣住民から告発されるという奇異な刑事事件が発生しました。

2020年8月、台中地方裁判所は最終的にこの女性を傷害罪により有期懲役6か月とする判決を下しました。

深夜に騒音を発生させるという事例は台湾では決して珍しくありませんが、現実には騒音の出所を調査するのは容易でなく、さらに騒音と傷害との間の因果関係を証明することは困難であることから、実務において騒音による刑事事件が発生することはほとんどありませんでした。にもかかわらず、本件において、裁判所が最終的にこの女性を有罪とする判決を下したことには、次のいくつかの重要な要因がありました。

  1. 被害に遭った近隣住民が有効な証拠収集を行ったこと。
    法廷において、裁判官は近隣住民が提出した録音・録画データの現場検証を行いました。当該データには、この女性が深夜に帰宅した後、「アー」、「ゴホゴホ」、「ペッ」など大きな声を出して痰を吐く音や、大きな音を立ててドアを閉めるさま、さまざまな物をたたくといった行為が示されており、当該映像や音によってこの女性が騒音を立てていたことが十分に証明されました。

  2. 被害に遭った近隣住民が、病院の診断書を用いて、騒音の影響によって憂鬱、イライラ、不眠、頭痛などの症状が当該近隣住民に生じたことを証明したこと。

裁判官は「睡眠は個人の健康に関わり、他人から過度の干渉を受けない睡眠をとることは、すべての人の適法な権利である。また、すべての人の住む場所についても他人に侵害されないという権利(他人の騒音によって侵害されないという権利を含む)を有している。よって、本件において、この女性が悪意をもって長期にわたって騒音を立てていたことは、合理的に容認できる範囲を超えて他人の睡眠の権利を妨害したため、刑法第304条の強制罪および刑法第277条の傷害罪に同時に該当する」と判断し、最終的には重い方の傷害罪により有期懲役6か月に処する判決を下しました。

何らかの法的手段を講じる前に有効な証拠収集を行うことは最も重要なことですが、この事件はその非常に良い例となりました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修