台湾法における犯罪被害者補償

 台湾に留学していたマレーシア国籍の女子大生が今年(2020)年10月下旬にAという台湾男性に強姦、殺害された事件は、台湾、マレーシア両国の高い関心を集めました。メディアの報道によりますと、犯人には賠償をするのに十分な資産がない可能性があることから、被害者家族が11月に「犯罪被害者補償」を台湾政府に申請したとされています。

 いわゆる「犯罪被害者補償」制度とは、犯罪事件発生後において、加害者の経済力不足、または行方不明などの原因により、被害者やその家族が往々にして賠償を得られないことを踏まえ、台湾政府が被害者保護法の規定に基づき、犯罪行為により死亡した者の遺族、重傷を負った者または性暴力犯罪の被害者に対して金銭による補償を行う制度をいいます。

 犯罪被害者補償の項目および金額の上限に関しては、以下の3つに分かれています。

一、死者の遺族に対する補償金。これには次のものが含まれます。(1)被害者が負傷したことにより支出した医療費(最高40万新台湾ドル)。(2)被害者が死亡したことにより支出した葬儀費用(最高30万新台湾ドル)。(3)被害者が死亡しことにより履行できない法定扶養義務(最高100万新台湾ドル)。(4)慰謝料(最高40万新台湾ドル)。

二、重傷害補償金。これには次のものが含まれます。(1)被害者が負傷したことにより支出した医療費(最高40万新台湾ドル)。(2)被害者が重傷を負ったことにより喪失もしくは減少した労働能力または増加した生活面での需要(最高100万新台湾ドル)。(3)慰謝料(最高40万新台湾ドル)。

三、性暴力補償金。これには次のものが含まれます。(1)被害者が負傷したことにより支出した医療費(最高40万新台湾ドル)。(2)被害者が性暴力を受けたことにより喪失もしくは減少した労働能力または増加した生活面での需要(最高100万新台湾ドル)(3)慰謝料(最高40万新台湾ドル)。

 なお、被害者やその遺族は、犯罪発生地に所在する地方検察署に対して申請を行わなければなりません。本件マレーシア国籍女子大生殺害事件については、高雄の橋頭地方検察署により申請が受理され、審査が行われることになります。弊所の過去の経験によれば、一般的には、申請後、約6~9か月程度で賠償がなされます。


 *本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修