支払命令の強制執行の消滅時効

 いわゆる「支払命令」とは、簡単に説明しますと、債権者から裁判所に申立てが行われ、裁判所が審査を経て発した「債務者は金銭又は財物を支払え」という命令のことを指します。

例えば、債務者乙が債権者甲に10万台湾元の債務があり、返済を拒んでいる場合、甲は乙の借用書を根拠として裁判所に支払命令を申し立てることができ、裁判所が申立てを許可した場合、乙に対して「乙は甲に対し10万台湾元を支払わなければならない」という内容が記載された書面の命令を郵送します。

 支払命令の法的根拠は、民事訴訟法第508条第1項「債権者の請求が、金銭又はその他の代替物又は有価証券の一定数量の給付を対象とする場合、督促手続により支払命令を発するよう裁判所に申し立てることができる」となります。
 民事訴訟法第521条第1項には「債務者が支払命令について法定期間内に適法に異議を申し出なかった場合、支払命令と確定判決は同一の効力を有する。」と規定されていましたが、当該条文は2015年7月に「債務者が支払命令について法定期間内に適法に異議を申し出なかった場合、支払命令は執行名義とすることができる」と改正されており、現行法に従うと、支払命令は強制執行の効力を有するのみで、確定判決と同一の効力は有しません。

 注意が必要なのは、上記の条文の改正に伴い支払命令の強制執行の時効も変更されているという点です。民法第137条には、「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するその他の執行名義により確定された請求権について、その元々の消滅時効期間が5年未満だった場合、中断により再び起算する時効期間は5年とする。」と規定されており、上記条文の改正までは支払命令は確定判決と同一の効力を有していたため、請求権の消滅時効が短期の債権(例えば、小切手の債権の請求権時効は1年のみ)を根拠として債権者が支払命令を申し立てかつ裁判所の許可を得た場合、その元の請求権の消滅時効は一律に5年延長されることになっていました。しかし、上記改正後の条文に従うと、当該請求権時効は延長されないことになります。

 弊所が過去に扱った案件で、小切手債権を回収しようと裁判所への支払命令の申立てを別の法律事務所に依頼したところ、担当弁護士が上記の時効の問題に注意していなかったため、支払命令を取得した1年後に、当該小切手債権の消滅時効が完成してしまい、強制執行手続をすることができなくなったケースがありました。そのため、債権回收作業を行うときは、この点に注意する必要があります。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修