携帯電話アプリ「LINE」の捜索、差押えについて

2023年7月7日、台南地方裁判所は2023年度訴字第111号刑事判決を下し、警察が事件Aのために差し押さえられている携帯電話から当該携帯電話上のメッセンジャーアプリの事件Bに関するトーク内容を取得しようとする場合には別途裁判所に対する捜索請求を要する旨を判示しました。

本件の概要は次のとおりです。

弁護士甲に秘密漏えい罪を犯した嫌疑があることから、調査局の調査官が裁判所の発付した捜索状を所持して甲に対する捜索を行い、甲の携帯電話を差し押さえました。調査官は甲の携帯電話を取得した後、当該携帯電話上のメッセンジャーアプリ「LINE」の通話履歴を調べ、甲と弁護士乙とのチャット履歴において、乙が別の事件の勾留決定書を甲に送信しているのを発見しました。

検察官は、当該勾留決定書には他人の個人情報や公開すべきでない刑事事件の情報が含まれていることから、刑法第132条第3項の秘密漏えい罪および個人情報保護法第41条の個人情報を違法に利用した罪で弁護士乙を起訴するとの判断を下しました。

台南地方裁判所は審理した後、2023年7月7日に弁護士乙を無罪とする判決を下しました。その主な理由は次のとおりです。

一、刑事訴訟法第152条の規定により「捜索または差押え実施時に、別事件のために差し押さえるべき物を発見した場合、それについても差し押さえてその管轄裁判所または検察官にそれぞれ引き渡すことができる」、つまり、警察は事件Aの調査のためにある個人または物件に対する捜索または差押えを行った時に、事件Bの犯罪の証拠を発見した場合、それについても差し押さえることができるとされている。もっとも、このような「別事件のための差押え」は「プレインビュー」の法理に適合する必要があり、つまり、事件Bの犯罪の証拠は警察の視線が及ぶ範囲内にあってはじめて合わせて差し押さえることができる。

二、本件において、調査官は甲の携帯電話を適法に差し押さえたが、一瞥しただけで甲と乙のトーク内容を知ることは不可能であり、さらに「LINE」アプリをクリックして開き、LINEにおけるトークグループを一つひとつチェックしてはじめて発見することができる。従って、調査官は捜索状を別途取得した後にはじめて原事件とは関係のない甲と乙のトーク内容の捜索、差押えを行うことができる。

三、本件における調査官の捜索、差押え行為は「プレインビュー」の法理に反するものであり、また、「勾留決定書を甲に送信したのは、弁護士の弁護業務を甲と共同で行うためだった」との弁護士乙の抗弁も信用できるものであることから、甲乙間の秘密通信権は保障されるべきである。

これまで警察は事件Aのために被告人の携帯電話を差し押さえた後、当該携帯電話におけるメッセンジャーアプリのさまざまなトーク内容を事件B、事件C、事件Dなどの犯罪の証拠としてしばしば利用していましたが、台南地方裁判所が本件判決を下しましたので、警察による今後の犯罪捜査処理の難度が大いに高まる可能性が出てきました。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修