パワーハラスメント防止が法的義務に 企業実務への影響を解説

今年7月1日より、改正職業安全衛生法(中国語:職業安全衛生法 / 以下、「本法」といいます)が施行されます。今回の改正では、職場におけるパワーハラスメント(中国語:職場霸凌)防止に関する規定が新たに設けられました。これまで、パワーハラスメントの防止措置等は主としてガイドラインや指針に基づいて運用されていましたが、今後は法令上の義務として位置付けられることとなります。そのため、企業が法定の防止措置や対応手続を適切に実施しない場合には、行政上の責任や罰則の対象となる可能性があり、企業実務に大きな影響を及ぼすことが予想されます。本稿では、改正職業安全衛生法の概要及び企業に求められる対応について解説いたします。

1.パワーハラスメントの定義

今回の改正により、パワーハラスメントの定義が法令上明文化されました。これにより、企業による社内調査や主管機関による審査において、パワーハラスメント該当性の判断基準がより明確となり、事実認定の予見可能性が高まることが期待されています。

第22条の1第1項

本法にいう「パワーハラスメント」とは、労働者が職場において職務を遂行する際に、事業場の構成員が職務上の地位や権限等の関係を利用し、業務上必要かつ合理的な範囲を逸脱して、継続的に侮辱、脅迫、無視、孤立、人格否定その他不適切な言動を行い、その結果として当該労働者の心身の健康に被害を生じさせることをいう。ただし、その態様が重大である場合には、継続性を要しない

2.事業者のパワーハラスメント防止義務等

使用者には、パワーハラスメントの発生を防止するために必要な措置を講ずる義務が明文化されるとともに、雇用する労働者数に応じて、苦情申立窓口の設置等が義務付けられました(第22条の1第2項参照)。

⑴労働者数が10人以上の場合
パワーハラスメントに関する苦情申立窓口を設置し、職場内に公示しなければならない。

⑵労働者数が30人以上の場合
パワーハラスメント防止措置、苦情申立手続及び懲戒に関する規程を定め、職場内に公示しなければならない。

3.パワーハラスメント発生時における使用者の対応義務

使用者は、労働者がパワーハラスメントを受けたことを知った場合、直ちに有効かつ適切な措置を講じなければならず、その具体的な対応内容も明文化されました。具体的には、被害労働者本人からの申立てにより把握した場合と、それ以外の方法により把握した場合とで求められる対応が整理されており、被害労働者の希望や事案の内容に応じた相談対応、必要な支援・保護措置の提供、事実関係の調査の実施等が義務付けられています。また、調査における客観性、公正性及び公平性の確保、調査手続、調査委員会の構成要件、中央主管機関への報告・登録義務等についても明文化されました(第22条の2第1項ないし第3項参照)。

4.パワーハラスメント防止規定要記載事項

また、上記に加え、「パワーハラスメントに関する申立規程及び懲戒規程」において定めるべき事項についても明文化されました。具体的には、以下の事項を規程に盛り込むことが求められています(第22条の2第4項参照)。

⑴パワーハラスメントの類型
⑵予防措置
⑶教育訓練
⑷申立窓口
⑸調査手続
⑹処理手続及び不服申立手続
⑺調査担当者の資格及び調査委員会の構成
⑻利益相反回避事項
⑼懲戒処分
⑽その他関連措置

5.最高責任者が被申立人である場合の申立先

このほかにも、労働者が事業場の最高責任者からパワーハラスメントを受けた場合には、事業者を介することなく、直轄市又は県(市)の主管機関に対して直接申立てを行うことができることが明文化されました(第22条の3参照)。申立期間には一定の制限が設けられているものの、最高責任者自身が加害者である場合には、社内での適切な対応を期待することが困難なケースも少なくありません。このことからも、本改正は、被害労働者の救済の実効性を高めるものであるといえます。

今後は、本法の下位法令である「パワーハラスメント防止準則」(中国語:職場霸凌防治準則)も施行される予定です。同準則には、企業が社内規程を整備する際の参考となる事項が数多く盛り込まれています。既に草案は公表されているため、これを参考にしながら、パワーハラスメント防止規程の整備・改定に早期に着手することを強くお勧めいたします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修 弁護士 秋口麻貴