台湾「労働基準法」における事業譲渡時の労働者の転籍に関する改正草案

会社内部の改編又は第三者への事業譲渡の際には、労働者が新事業者に転籍されるという状況がしばしば発生する。台湾の現行の労働基準法第20条によれば、まず新旧の使用者が、各労働者の雇用継続の有無を協議したうえで決定する。雇用継続が決定された労働者は新事業者に移り、旧使用者における勤続年数は、新使用者が承認し且つ継続計算する。雇用継続されない労働者については、解雇手続に入り、旧使用者が労働基準法の規定により解雇手当の支給を行った後、解雇する。

本条が制定されたのは1984年であるが、その後20数年来、経営環境及び企業経営の継続的な発展に伴い、特に近年、企業のM&Aが増加していることもあって、このような規定は時勢に合わなくなっている。台湾行政院労工委員会も、台湾の現行労働基準法を大幅に改正することを予定しており、また既に公式な改正草案を公表している。しかし、未だ台湾の立法機関に正式には提出されていない。

この改正草案によると、転籍は、転籍発生事由により「合併」及び「合併以外の事由による譲渡」の2つに分けられ、それぞれ別々に規定が設けられている。

  1. 「合併」時の転籍(新第20条)
    旧法とは異なり、旧使用者の労働者は合併の際、全員が新事業者に転籍されなければならない。現行法において新旧使用者が有していた、各労働者の雇用継続の有無についての決定権はなくなるので注意を要する。
    手続面では、「新使用者は合併基準日の30日前までに、書面に労働条件を記載し、旧使用者の労働者全員に通知しなければならない」という義務が追加される。旧使用者の労働者が合併後の転籍に同意しない場合、通知を受け取ってから10日以内に、新使用者に通知しなければならない。
    転籍に同意しない労働者については、旧使用者が、解雇手当又は退職金を支給したうえで解雇する。
    合併後の転籍に同意する労働者については、新使用者はこれまでの勤続年数を承認し、継続計算しなければならない。しかし、転籍が完了した労働者について、合併基準日から起算して6か月以内は、新使用者は依然として「解雇手当又は退職金を支給する方式をもって解雇する」権利を留保している。
    このほか、新使用者は、既存の労働者について、合併により転籍された労働者との間で労働条件に差別待遇を設けてはならないとされている。
  2. 「合併以外の事由による譲渡」時の転籍(新第20条の1)
    譲渡事由が合併以外の原因による場合、新使用者は、同様に譲渡基準日の30日前まで に書面に労働条件を記載したうえ、「新旧使用者が継続雇用に同意した労働者」に通知する。この部分は現行法と同じであり、新旧使用者は、労働者の継続雇用の可否について決定権を有する。
    通知を受け取った労働者は、通知受領後10日以内に書面をもって、新使用者への移転に同意するか否かを回答しなければならない。期間内に回答しない場合は、当該労働者は転籍に同意したものとみなされる。
    転籍に同意した労働者について、新使用者は、その旧使用者における勤続年数を承認し且つ継続計算しなければならない。このほか、新使用者は既存の労働者について、転籍された労働者との間で労働条件に差別待遇を設けてはならないとされている。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修