董事による自己又は他者のための会社との取引の効力

台湾の最高裁判所の民事法廷は2011年10月6日に2011年台上字第1672号判決により、「董事が自己又は他者のために会社と売買、金銭貸借等の行為を行う場合、監査役が会社の代表にならなければならないが、これに違反した場合でも、会社の同意を得さえすれば、上記の売買等の行為は会社に対し効力を生じる」という判断を下しました。

台湾の会社法第233条の「董事が自己又は他者のために会社と売買、金銭貸借又はその他の法律行為を行う場合、監査役が会社の代表となる」という規定の趣旨は、董事が自己又は他者のために会社と売買、金銭貸借又はその他取引の性質を有し、利害関係を有する法律行為を行う場合には、董事と会社間の取引の公平性を確保し、董事間の個人的な関係により会社の利益が犠牲にされることを防止し、かつ双方代理を禁止する必要があるため、このような場合には監査役が会社の代表となり当該董事と交渉しなければならないということにあります。

しかし、会社法には、本条に違反した場合の法的効果について明文の規定がないため、違反した場合に当該取引行為が当然に無効となるのか、それとも他の法的効果が生じるのかについて、実務上争いがありました。

この点について、最高裁判所は当然に無効となるという立場は採っていません。

たとえば、2009年台上字第2050号判決では、「『董事が自己又は他者のために会社と売買、金銭貸借又はその他の法律行為を行う場合、監査役が会社の代表となる』という会社法第233条の規定は、会社(本人)の利益を保護するために双方代理を禁止するものであって、公共の利益を保護するために設けられたものではないため、強行規定ではない。

従って、董事が会社と行う金銭貸借等の法律行為が当該規定に違反しても、当然に無効となるわけではない。」としています。また、当該判決は民法第106条の自己代理、双方代理及び民法170条第1項の無権代理の規定を援用して、「監査役が会社を代表していなくても、会社から事前の許諾又は事後の承認を得さえすれば、董事が自己又は他者のために会社と行う取引行為は、会社に対し効力を生じる。」としています。

上記の2011年台上字第1672号判決も、この判決と同様の立場を採っています。

つまり、会社法第233条に違反した場合でも、董事が自己又は他者のために会社と行う取引行為について、会社が事前又は事後に承認すれば、当該取引行為は会社に対して効力を生じることになります。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修