違法な兼任時の監査役の行為の効力

台湾の会社法第222条によれば、監査役は会社の董事、支配人又は他の職員を兼任してはならないとされているが、株式会社の監査役が違法に会社の支配人を兼任した場合における監査役の行為の法的効力について、台湾の最高裁判所は2012年9月20日に2012年台上字第4853号刑事判決を下し、「監査役が違法に会社の支配人を兼任し、解任前に監査役の身分で行った行為はなお有効である」という見解を示した。

本件の台湾の最高裁判所の判決に関する事実の概要は以下の通りである。
被告A氏は甲社の監査役であり、同社の「副総経理(即ち、会社法上の「支配人」)」を兼任していた。

A氏は甲社が銀行法に基づく設立登記を行った銀行業者ではない以上、信託ファンドの運用を受託する銀行業務を経営することができないことを知りながら、2005年5月から他の者と共謀して、主管機関である行政院金融監督管理委員会の承認を受けずに「米ドルヘッジファンド」等、米ドルを投資単位とする多数の信託ファンドを違法に外部に発行し、かつ出資者に対し「出資額の140%〜300%の利益を1年間保証する」と宣伝し、この方法で100人以上の被害者から巨額の違法資金を募り、関連する銀行法、会社法等に対する法律違反により、高等裁判所より懲役6年の判決が言い渡された。

A氏は上告の際、会社法第222条を根拠に、「自分は甲社の支配人を兼任して会社法に違反している以上、監査役の身分で行ったその取引行為は無効となるはずである」と主張した。

これに対し、台湾の最高裁判所は判決理由において、「監査役が会社法の規定に違反して会社の支配人を兼任した場合の法的効果について会社法に明文の規定はないが、監査役が会社の支配人を兼任していることが違法であるか否かについては、会社内部の問題であって、外部の者が容易に知ることはできないため、解釈上、『監査役が会社の支配人を兼任している場合、取引相手を保護するため、解任前に監査役の身分で行った行為はなお有効である』と判断しなければならない」という見解を示した。

本見解は、刑事事件に関するものであるため、民事事件における射程は不明であるが、違法な兼任時の監査役の行為の効力についての裁判所の一見解として、参考になるものと解される。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修