労働者の試用期間について

いわゆる「試用期間」について、台湾法上、明文の定義は存在しないが、一般的には、使用者が労働者を雇用した後の一定期間、当該労働者が適任であるか否かを観察し、試用期間の満了後に、当該労働者が適任であると使用者が判断した場合は留任させ、反対に適任ではないと判断した場合は解雇することを指す。

台湾法においては、試用期間を設けることを禁止し又は制限する規定はないため、実務上、使用者と労働者との間で雇用契約において、試用期間についても規定する場合が一般的である。試用期間の長さについては、労働基準法の施行細則第6条に「試用期間は40日間を超えてはならない」と規定されていたが、当該規定は1997年6月12日に削除されたため、現在、試用期間の長さは使用者と労働者との間で自由に規定することができると解されている。実務上、試用期間の期間は、通常1ヶ月間から6ヶ月間の間であり、3ヶ月間がもっとも多い。

試用期間が満了し、使用者が労働者のパフォーマンスに満足できない場合、無条件に雇用契約を終了させることができるかについて、労働部1997年9月3日(86)台労資二字第035588号通達によれば、次の通りとされている。

「労使双方は業務の特性に基づき、契約の信義誠実の原則に違反しないことを原則として、合理的な試用期間を自由に約定することは、法により容認されるものである。

しかしながら当該試用期間中又は期間満了時点において、使用者が労働契約を終了したい場合は、なお労働基準法第11条(予告解雇の条件)、第12条(無予告解雇の条件)、第16条(解雇の予告時期)および第17条(解雇手当)などの関連規定に基づいて手続しなければならない。」
つまり、労働部の上記通達によれば、試用期間中の労働者のパフォーマンスに満足できない場合の使用者による労働者の解雇は、一般の労働者に対するものと同じ手続きが必要とされている。

これについて、台湾高等裁判所は2014年4月29日付の2013年度労上字第82号の民事判決は、「試用期間の趣旨は、使用者による比較的大きな労働者解雇の権利を留保させ、かつ使用者による当該解雇事由の証明義務を軽減させることにある」と指摘しており、言い換えると、裁判所の見解によれば、使用者は試用期間が満了したがパフォーマンスが不十分な労働者に対して、なお労働基準法の関連規定に基づかなければ労働者を解雇することができないが、解雇の事由(例えば、労働者が適任であるか否か、労働者が就業規則などに違反したか否かなど)についての立証責任は軽減されるということになり、裁判所も使用者の判断を尊重する傾向にある。

実務上、従業員の実際の業務能力が履歴書に記載される内容と合致しないというケースはよくあるため、外国企業が従業員を採用する際は、適任でない従業員を解雇させる時の難易度を下げるため、雇用契約において一定の試用期間を約定することをお勧めする。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修