一人株式会社における清算人の選任

台湾経済部の近時の見解によれば、一人株式会社(法人株主が一人のみの株式会社)が、董事会において会社解散の決議を行った場合、董事全員が法定清算人とならなければならないが、董事全員が清算人となることを望まず、また、会社定款にも清算人が指定されていないときは、会社が清算手続きを行えるよう、法人株主が適切な者を指名して清算人に就任させることができるとされている。

会社法第322条第1項の規定によれば、会社が清算を行う際、別段の定めがある場合又は株主総会において別途清算人を選任する場合を除き、董事が清算人となり、また、同法第128条の1第1項の規定によれば、法人株主が一人で組織する株式会社については、株主総会の職権は董事会が行使するとされている。

さらに、経済部の09年11月2日の経商字第09802144800号書簡によれば、法人株主が一人で組織する株式会社が董事会において会社解散の決議を行ったときは、定款に別段の定めがある場合を除き、董事会が株主総会の職権を代行して別途清算人を選任するのではなく、董事全員が自ら法定の清算人とならなければならないとされている。

以上の通り、一人株式会社が会社解散の決議後に清算手続きに入る場合には、董事全員が清算人とならなければならない。しかしながら、この場合、董事全員が清算人となることを望まず、また、会社定款にも清算人の選任について規定がないときは、法律上、清算を行う清算人がいないという問題が生じることになる。そこで、経済部の14年11月3日の経商字第10302128450号令の規定により、この場合、法人株主は適切な者を指名して清算人に就任させることができるとされた。

実務上、多くの日本企業は台湾において100%子会社を設立しており、かつ董事全員が本社から派遣されているケースも少なくないと考えられるため、上記の一人株式会社が清算を行うときの問題が日本企業に発生する可能性は低くないと考える。そのため、日本企業の、特に100%子会社の清算を行うときには、董事に負担をかけることなく適正な手続きを行うため、法律事務所等の専門家に清算手続きを依頼するのが望ましいと考えられる。

以上


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修