労働者の有給休暇が未消化となった場合の雇用主の義務

台湾士林地方裁判所は、2014年12月1日、2014年度労訴字第28号民事判決により、年度終了時に、雇用主の責に帰すべき事由により労働者の有給休暇が未消化となった場合には、雇用主は未消化日数分の賃金を支給しなければならず、他方、労働者個人の責めに帰すべき事由により未消化となった場合には、雇用主は未消化日数分の賃金を支給しなくても良い旨を判示した。

本件の概要:
Aは、01年から営業主管としてB社に勤務し、1カ月当たりの給与は約13万台湾元であった。

13年12月、Bはまず、会社の欠損や操業短縮を理由として、労働基準法(以下「労基法」という)第11条第2号(すなわち、雇用主において欠損があるまたは操業短縮を行う場合)に基づき、Aとの労働契約を解除し、さらに、14年3月、BはAにセクシャルハラスメント行為があったことを理由として、労基法第12条第1項第4号(すなわち、労働者が労働契約または就業規則に違反し、その情状が重大な場合)に基づき、Aとの労働契約を解除するとともに、解雇手当の支払いを拒否した。

そこでAはBを被告として、解雇手当と未消化分有給休暇の賃金計約106万台湾元の支払いを求めた。

裁判所は審理の結果、Aの請求を認めた。その主な理由は次のとおりである。
労基法第11条は、雇用主が一方的な意思表示によって、将来に向かって労働契約の効力を失わせるものであり、形成権の一種である。13年度、Bに欠損及び操業短縮があったことを理由に、Bがまず労基法第11条第2号を理由としてAとの労働契約を解除したことで、当該解除の効力はすでに生じており、後からさらに労基法第12条第1項第4号の事由により契約を解除することはできない。

また、労基法第17条により、雇用主は第11条に基づき労働契約を解除する場合、解雇手当を支給しなければならないため、Aが解雇手当の支払いをBに請求することには理由がある。

労基法第38条には、「同一の雇用主または事業者組織における勤続年数が一定の期間に達した労働者に対し、以下の規定に基づき、毎年有給休暇を与えなければならない。1、勤続年数が1年以上3年未満の場合は7日。2、勤続年数が3年以上5年未満の場合は10日。3、勤続年数が5年以上10年未満の場合は14日。4、勤続年数が10年以上の場合、1年につき1日を加算し、総日数は30日までとする。」と規定されている。

また、行政院労働者委員会台労働二字第21827号書簡の解釈によれば、年度終了時に、雇用主の責に帰すべき事由により労働者の有給休暇が未消化となった場合には、雇用主は未消化日数分の賃金を支給しなければならず、他方、労働者の責めに帰すべき事由により未消化となった場合には、雇用主は未消化日数分の賃金を支給しなくても良いとされている。

本件では、Bが欠損および操業短縮を理由としてAとの労働契約を解除しており、Bの責めに帰すべき事由によってAの有給休暇が未消化となったのであるから、Bは未消化日数分の賃金をAに支給しなければならない。

本件では、Bがまず労基法第12条によりAを解雇することができていれば、Bは解雇手当を給付する必要はなく、また未消化日数分の賃金もAに給付する必要もなかった可能性があるものと推測ができる。従って、解雇手続きについては、専門家と相談し、十分に精査する必要がある。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修