外国人による台湾の軍隊駐屯地での写真撮影の法的責任

最近台湾全土で、「Apacheヘリコプター違法写真撮影事件」が注目を集めているが、検察官の調べにより、事件当日、6名の外国人が許可なく台湾の軍隊駐屯地に立ち入ったこと、そのうちの1名は日本人であることが判明した。
本事件の概要は次のとおりである。

今年(2015年)3月29日、台湾陸軍の将校Aが親戚および友人約20名を、同将校が勤務する陸軍のある旅団に招き入れ、見学させた。そもそも、一般人が軍隊駐屯地に立ち入る場合は応接室などの公共区域しか移動できないが、本事件ではA将校は自らの親戚や友人をApacheヘリコプターが駐機されている機密管制区域に連れて行き、親戚や友人に自由に写真撮影させ、さらには、Apacheヘリコプターのコックピットに入れて写真撮影させた。その後、このうち1名が、自分がApacheヘリコプターのコックピットに座っている写真をFacebookに載せた。この人物が有名な芸能人であったため、本事件はあっという間に広まった。

本事件が台湾全土で非常に注目を集めた主な理由は、以下のとおりである。

  1. 米国製のApacheヘリコプターは、世界でもっとも強力な攻撃ヘリコプターと言われており、今回写真撮影された機種は最新機種で、台湾は米国以外でこの機種を有する唯一の国であるため、Apacheヘリコプターの軍事機密レベルは極めて高い。
  2. A将校はApacheヘリコプターのパイロットであり、台湾政府が養成するエリート将校であるにもかかわらず、軍隊の秘密保持規則を無視し、一般人に、秘密を保持すべきハイテク兵器を自由に写真撮影させた。
  3. 規則では、外国人は、台湾の軍隊駐屯地に立ち入る場合、30日前までに国防部に申請して許可を得なければならないが、今回、6名の外国人は何の申請もせずに駐屯地に入り込んでおり、安全管理面において深刻な問題があった。

なお、メディアの報道によれば、外国人のうち1名は日本人であり、その日本人もApacheヘリコプターを写真撮影している。

要塞堡塁地帯法第1条では、「国防上制御、確保しなければならない戦術上の重要拠点、軍港および軍用機の飛行場を要塞堡塁という。要塞堡塁およびその周辺における必要な区域(水域を含む)を要塞堡塁地帯という」と規定されている。また、同法第4条第1号および第9条の規定によれば、国防部からの特別命令がない限り、要塞堡塁に対し測量、撮影、描写、記述および軍事上の偵察に関するそのほかの事項をなしてはならず、故意に違反した場合には、1年以上7年以下の懲役に処され、過失により違反した場合でも、1年以下の懲役、拘留に処され又は500台湾元以下の罰金が科されることになる。

Apacheヘリコプターは高度な戦略性と機密性を有することから、本事件において、Apacheヘリコプターが駐機されている格納庫は法律上「要塞堡塁」に該当する可能性が高い。よって、上記日本人を含めた、本事件での見学者は、機密性を知らずに写真撮影をしたとしても、過失犯と認定される可能性があり、1年以下の懲役、拘留又は500台湾元以下の罰金という処罰が下される可能性がある。

いかなる国でも、軍用機、軍用ヘリ、軍艦などの兵器は、基本的にすべて高度な機密性を有する設備であり、見学や写真撮影の前には、必ず関連する制限規定、禁止規定を確認しなければならないことに、注意が必要である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は、当事務所にご相談ください。

【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修