台湾における「動産抵当」について

ここ数年、景気が悪いことから、商品の買主などの債務者の財務状況が悪化したために、売主などの債権者が代金などの債権を回収することができないといった事態が少なからず発生している。このため、いかにして債権を回収するかが企業にとっては非常に重要な課題となっている。

債務者に対し、その負担する債務について、十分な担保の提供を求めることは、債権を回収する上で、一つの有効な方法である。

担保物権のうち、動産に対する約定担保物権としては、債務者の動産に対する「動産抵当権」がある。「動産の抵当」とは、動産担保取引法第15条によれば、債権者又は第三者に占有を移転することなく、債権の担保として供される動産に抵当権者が動産抵当権を設定し、債務者が契約を履行しない場合に抵当権者が抵当物を取得し、これを売却し、また、その売却によって得た代金について、ほかの債権に優先して弁済を受けるというものである。

動産に対する約定担保物権としては、動産抵当権のほかに動産質権がある。
動産抵当権と動産質権の違いは、主に次の3点である。

  1. 動産抵当権における動産は、債務者が占有したままであるが、動産質権では、債権者は動産を占有しなければならず、そうしない場合、質権は失効してしまう。
  2. 動産抵当権では、債権者、債務者が動産抵当の設定に関する書面契約を締結しなければならないが、動産質権では、書面契約を締結する必要がない。
  3. 動産抵当権は主管機関に登記してはじめて発効するが、動産質権は何ら登記を行う必要がない。

実務においては、債務者が法人である場合、動産抵当権を設定することによって担保を提供する場合の方が多い。その理由は、担保物が機械などの生産力を有する道具である場合において債務者が占有しているときに、その機械を引き続き利用して生産を行うことができた方が債務者の弁済能力が引き上げられる一方、債務者が約定した期間内に債務を弁済しなかった場合、債権者が担保物を引き取り、競売にかけ、また、競売によって得た金銭によって弁済を獲得することができるためである。

なお、債権者が裁判所の許可を取得した後でなければ競売を行うことができない不動産抵当の場合に比べ、このような許可を要しない動産抵当はかなり便利であるといえる。
動産抵当権設定登記を行うにあたっては、契約書や主管機関への登記申請等の関連申請文書の準備が必要となるため、専門家に依頼するのが望ましい。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修