第316回 台湾法上のインサイダー取引

 最近、以下のようなインサイダー取引の事例がありました。

 上場企業A社に勤める会計士の林氏は、勤務時に「A社はベネズエラ政府案件への投資に失敗し、29億台湾元(約106億円)の損失を計上することについて、情報を公告する」という情報を偶然知ります。林氏はこの情報が公開されないうちに、自分の保有するA社の株式(計4万1,000株)を売却し、約12万元分の損失を減らしました。

 林氏はインサイダー取引の容疑で起訴され、新北地方裁判所の審理で有罪判決を受けました。しかし林氏に前科がなく、犯した過ちを認めて後悔していることを考慮し、裁判所は2019年12月に懲役1年7月、執行猶予3年の減刑判決を下しました。

インサイダー取引の規定

 台湾法上のインサイダー取引の主な規定は、証券取引法第157条の1第1項に以下のように定められています。

 「次の各号に掲げる者は、株券発行会社がその株価に重大な影響を及ぼす情報を有することを知った場合、当該情報の公開前または公開後18時間以内に、同社の上場している株式市場または証券会社の営業所において売買する株券、またはその他所持人の権利を表章する性質を有する有価証券につき、自らまたは他者の名義によって買い付けたり売却したりしてはならない。

1.同社の取締役、監査役、支配人および会社法第27条第1項の規定により指定を受け、職務を代表して行使する自然人

2.10%を超える同社の株式を保有する株主

3.職業または支配関係に基づき情報を得ることのできる者

4.前3号の身分を喪失してから6カ月を経過していない者

5.前4号に掲げる者から情報を得ることのできる者」

 違反した場合、同法第171条第1項により、3年以上10年以下の懲役、さらに1,000万元以上2億元以下の過料を併科できます。

 「その株価に重大な影響を及ぼす情報」とは、同法第157条の1第5項によると、「会社の財務、業務または当該証券の市場における需給、公開買い付けに関わり、その具体的内容がその株価に重大な影響を及ぼす情報、または正当な投資者の投資決定に重要な影響を及ぼす情報」を指します。例えば、冒頭の事例で林氏が耳にした「A社の対外投資に重大な損失が発生した」という情報はその一つです。

 上記に該当する情報は数十種類あり、「証券取引法第157条の1第5項および第6項の重大な情報の範囲およびその公開方式についての管理弁法」に規定されています。

 インサイダー取引の罪に関する規定はかなり複雑で、罰則も非常に重くなっています。台湾の上場会社とM&Aなどの取引を行う際には、法律の専門家と相談しながら進める方が安全でしょう。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。