第329回 取締役会の開催通知の発送期限

以前、ある台湾の有名非上場食品会社の取締役が、取締役会開催前日になって開催通知を受領したことから、「取締役会の招集は3日前までに各取締役および監査役に通知しなければならない。」との会社法第204条第1項本文の規定違反を理由に、取締役会の招集は無効と主張したことがありました。高等法院(高等裁判所)は2019年度上字第1093号判決により、次の通り判断を下しました。

発信主義を採用

株式会社の株主総会の招集通知は、学説でも実務における見解でも発信主義を採用しています。つまり、株主が当該通知を際に受け取っているか否かにかかわらず、その通知の効力は株主総会の開催通知が発送された時点で既に生じています。

株式会社の取締役会は、業務執行機関です。同法第202条の規定により、会社の業務執行は会社法または定款の定めに基づき、株主総会において決議しなければならない事項を除き、全て取締役会の決議をもって行わなければならないものとされています。

また、会社の業務執行および決定を行うに当たり、商機をつかむため、迅速に取締役全員を招集して会合・議論した上で決議を行うことが大事です。

同法第172条第1、2項で、定時株主総会、臨時株主総会の招集はそれぞれ20日前および10日前までに通知する旨が規定されています。一方、同法第204条第1、3項では、取締役会の招集は3日前までに各取締役および監査役に通知すること、緊急の事情がある場合には随時これを招集することもできる旨が規定されています。通知期限が短くなっているという違いがあることからも取締役会の迅速性を重視しているのが明白です。

到達主義は非現実的

仮に、到達主義を採用する(つまり、取締役が当該通知を受け取ることをもって効力を生じるとする)場合には、開催に先立って開催通知が全て各取締役および監査役に到達しているどうかを確定する必要があります。そうすると、取締役会の招集をスケジュール通りに行えなくなり、商機を逃します。また、取締役会招集通知の発送を巡る論争によって取締役会の決議が確定しない状態、ひいては執行できないという苦境に陥ることは、明らかに会社の業務の執行にとって不利益であり、立法の趣旨にも反していることから、取締役会の会議通知も発信主義を採用すべきです。

よって、裁判所は、本件の取締役会は19年1月8日に開催され、開催通知書は同月3日に発送されており、通知の翌日から起算すると開催まであと4日あり、所定の3日前という条件を満たしているため、会社法第204条第1項に違反していないと判断しました。

以上より、台湾の会社の取締役を担当する場合には、取締役会の開催通知を発送する時間に注意すべきです。また、公開発行会社の場合には、公開発行会社取締役会議事弁法第3条第2項「取締役会の開催通知を発送する時間は開催日の7日前までとする」との規定に注意すべきです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。