第355回 夜中に騒音を立てると傷害罪?

 台中市の女性が2017年2月から19年3月まで、夜遅くに鉄の門や壁、バケツなどをたたいたり、痰(たん)を吐くなどして騒音を立て、近隣住民に不眠、頭痛、イライラといった症状を引き起こしたとして、数人の近隣住民から告発されました。2020年8月、台中地方法院(地方裁判所)は、被告を傷害罪により有期懲役6月とする判決を下しました。

睡眠の権利妨害で懲役6月

 深夜に騒音を発生させることは台湾では決して珍しくありません。現実には、騒音の出どころを調査するのは容易でなく、騒音と傷害の因果関係を証明することは困難で、実務において騒音による刑事事件が発生することはほとんどありません。

 にもかかわらず、本件において、裁判所が有罪判決を下したことには、次のいくつかの重要な要因があります。

1.被害に遭った近隣住民が有効な証拠収集を行ったこと。

 法廷において、裁判官は近隣住民が提出した録音・録画データの現場検証を行いました。当該データには、被告が深夜に帰宅した後、「アー」、「ゴホゴホ」、「ペッ」など大きな声を出して痰を吐く音や、大きな音を立ててドアを閉める、さまざまな物をたたくといったことが示されており、当該映像や音によって被告が騒音を立てていたことが証明されました。

2.被害に遭った近隣住民が、病院の診断書を用いて、騒音の影響によって憂鬱(ゆううつ)、イライラ、不眠、頭痛などの症状が生じたことを証明したこと。

 裁判官は「睡眠は個人の健康に関わり、他人から過度の干渉を受けない睡眠を取ることは、全ての人の適法な権利である。また、全ての人の住む場所についても他人に侵害されないという権利(他人の騒音によって侵害されないという権利を含む)を有している。よって、本件において、被告が悪意をもって長期にわたって騒音を立てていたことは、合理的に容認できる範囲を超えて他人の睡眠の権利を妨害したため、刑法第304条の強制罪および刑法第277条の傷害罪に同時に該当する」と判断し、最終的には重い方の傷害罪により有期懲役6月に処する判決を下しました。

 何らかの法的手段を講じる前に有効な証拠収集を行うことが重要で、この事件はその非常に良い例となっています。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。