第386回 決議された配当額の変更

 「今年の配当額について、台湾子会社の取締役会で決議し、監察人も承認した。後は定時株主総会の決議だけで済む段階になって、日本本社から配当額の変更要求が来た。どうすればいいのか」というご質問を頂くことがあります。

 会社法第228条の規定によりますと、会社の会計年度ごとの利益分配案について、定時株主総会開催日の30日前までに監察人の承認を得なければなりません。同法第170条の規定によりますと、定期株主総会は毎会計年度の終了後6カ月以内に開催しなければならず、正当な事由により主管機関に申請して認可を受けない限り、会社を代表する取締役が定期株主総会の開催期限の規定に違反した場合、1万台湾元(約4万円)以上、5万元以下の過料に処されるリスクがあります。

 日本本社からの配当額の変更要求に応じれば、監察人の承認や定時株主総会の開催期限に間に合わなくなり、上記規定に違反する可能性がある場合は、どうすればいいのでしょうか。以下のような対応策が考えられます。

監察人の承認について

 経済部の1990年3月21日商20325号および2010年1月12日経商字第09802174040号書簡の解釈によりますと、利益分配案について、監察人に定時株主総会開催日の30日前までに承認されていない場合、監察人は異議を申し立てることができますが、監察人に30日前までに承認されず、監察人から異議申し立てをされない場合、株主総会の決議の効力に影響を与えないと解されます。

 つまり、事後追認など監察人が異議申し立てをしないことを確保できれば、定時株主総会開催日の30日前以降にも、配当額の変更は可能であると解されます。

定時株主総会の延期

 正当な事由をもって、主管機関である経済部に申請し、「定期株主総会開催日の延期」の許可を取得し、定期株主総会の開催日を延期する対策も考えられます。

 経済部の20年4月16日経商字第10902015230号書簡の内容に鑑み、「新型コロナウイルス感染拡大防止のため」という理由で許可が得られる可能性は高いと考えます。

臨時総会での配当額変更

 いったん、定時株主総会で旧配当案を決議した後、配当を実行する前に、当該会計年度内において臨時株主総会を開催し、新たな配当額を決議することも可能であると、経済部の18年9月5日経商字第10702049260号書簡で説明されています。

 以上のように、たとえ法律違反になり得る苦境に陥るような状況があっても、主管機関の解釈などを参照し、複数の対応策が提案できる可能性もあります。類似する状況が生じた場合、現地の法律専門家に対応策を相談することをお勧めいたします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。