第404回 キャッシュアウト

 台湾において、大株主が会社を完全にコントロールしたいものの、少数株主が反対し、所有株式の任意の売却を拒否した場合、大株主は少数株主をキャッシュアウト(現金を対価として少数株主を強制的に会社から排除)することができるのでしょうか。

 発行済み株式が全て普通株である非上場会社において、大株主は下記の方法などにより、少数株主をキャッシュアウトできると考えます。

1.他社との合併

 企業M&A(合併・買収)法第18条によりますと、株主総会において、発行済み株式総数の3分の2以上を占める株主が出席し、出席株主の過半数が同意した場合(以下「特別決議」と言います)、他社と合併することができます。少数株主がこれに同意するかにかかわらず、当該他社が現金を対価として当該少数株主に支払う場合、当該少数株主は当該他社の株式を所有することができず、当該他社の株式を会社が100%所有すれば、当該少数株主をキャッシュアウトできると解されます。

2.会社の営業もしくは財産の全部もしくは主要部分の譲渡または会社分割

 会社法第185条によりますと、株主総会の特別決議により、会社の営業または財産の全部または主要部分を他社に譲渡することができます。また、企業M&A法第35条によりますと、株主総会の特別決議により、会社分割を行うことができます。これに同意しない株主は、会社に対し、当時の公正価額で株式の買い取りを請求することができると解されます。

 また、少数株主がこれに同意しても、当該他社が現金を対価として当該少数株主に支払う場合、当該少数株主は当該他社の株式を所有することができず、当該他社の株式を会社が100%所有し、会社の営業もしくは財産の全部もしくは主要部分の当該他社への譲渡後、または会社分割後に解散すれば、当該少数株主をキャッシュアウトできると解されます。

3.株式交換

 「株式交換」とは、企業M&A法第4条第5号の規定によりますと、「会社が発行済み株式の全部を他社に譲渡し、当該他社が株式、現金、またはその他の財産を対価として会社の株主に支払う行為を指す」ことです。同法第29条によりますと、株主総会の特別決議により、発行済み株式の全部を他社に譲渡すること、つまり、他社の完全子会社になることができます。これに同意しない株主は会社に対し、当時の公正価額で株式の買い取りを請求することができると解されます。

 また、少数株主がそれに同意しても、当該他社が現金またはその他の財産を対価として当該少数株主に支払う場合、当該少数株主は当該他社の株式を所有することができず、当該他社の株式を会社が100%所有すれば、当該少数株主をキャッシュアウトすることができると解されます。

 以上、大株主が少数株主をキャッシュアウトするには、株主総会の特別決議を可決すること、つまり、発行済み株式総数の3分の2以上をコントロール可能であることが条件です。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。