第419回 入境後の隔離規定違反で裁判所が罰を免じた前例

 新型コロナウイルス感染症の状況が落ち着くにつれ、世界各国・地域では次々と入境時の隔離の規定を解除していますが、台湾に入境する際には、依然として非常に厳格な隔離および数回のPCR検査を行わなければなりません。

 台湾では、入境時の外出制限「居家検疫」は「住宅1戸に1人」でなければならず、かつ一定の期間一歩も外出してはならないと規定しており、少しでも外出すれば、少なくとも10万台湾元(約41万円)の過料に処されることになります。しかし、人身の自由をこのように厳しく制限する規定でありながら、規定の内容はしばしば変更され、また、不明確な点が多々あります。

通知書の記載に矛盾

 以前、1人の台湾人が台湾への入境時に自宅で「住宅1戸に1人」で隔離を行うと申告したにもかかわらず、役所の職員が調査のため訪問した時、当該隔離者は確かに自宅の3階の部屋で隔離されてはいたものの、当該隔離者の家族も別の階で生活しており、1戸の住宅内にいるのが1人だけではなかったことが判明し、隔離者を10万元の過料に処すとの決定を下したということがありました。

 当該隔離者がこれを不服として行政訴訟を提起した後、今年の初めに台南地方法院(地方裁判所)は、「検疫通知書の規定には矛盾がある。衛生局から当該隔離者への検疫通知書の表面には『住宅1戸に1人』について『当該住宅内に在宅隔離者以外の者がいないことに該当する』と定義しているものの、同書の裏面に記載されている係争対象の『家族と同居する場合に遵守すべき事項』では、同時に『なるべく家族と分離して居住すること』、『共同生活者は共に適切な防護措置を取らなければならない』との指示もあり、この二つの規定は市民を混同させやすくなっている。よって、衛生福利部(衛福部)疾病管制署(疾管署)の規範は不明確で、衛生局の裁量は違法であると認定し、過料決定通知書を取り消す」と判示しました。

 また裁判官は、「10万元の過料は当時の最低基本賃金である2万4,000元の4.16倍となっており、少なからぬ額であるため、行政機関には、簡潔かつ明確な文章で規範を表し、意味が曖昧にならないようにする責任があり、ましてや、意味やロジック上矛盾があってはならない」との考えを示しました。

 台湾の入境隔離政策は現在も依然としてかなり厳しいものであり、人身の自由に対する制限度が非常に高く、過料は最高で100万元になり得るにもかかわらず、関連規範は、臨時的な行政機関である「中央流行疫情指揮中心(中央流行疫情指揮センター)」が決定しさえすれば変更することが可能となっています。処分を受けた人は、その明確性、比例原則などに疑問がある場合は、行政救済の申し立てを行うことができます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。