第427回 結婚の有効要件

20年間姿を消していた「妻」が突然現れ、既に他の女性と結婚している「夫」に対し、婚姻関係存在確認請求訴訟を提起したという奇異な事件が台湾で最近発生しました。

本件の概要は次の通りです。男性Aは1998年に、高校時代に好意を抱いていたクラスメートの女性Bに街中で偶然出会いました。その後2人は99年に五つ星ホテルで豪華な結婚式を挙げましたが、結婚式当日、披露宴の卓数の数、費用の分担などのことで、男性Aと女性Bの間に激しいけんかが発生しました。

それ以来、2人は別々の道を進み、互いに連絡することも一切なく、男性Aもその後別の女性と結婚して子どもも生まれました。

男性Aと女性Bが別れてから20年がたった2019年に、女性Bが突然現れ、結婚登記を行うよう男性Aに要求しました。男性Aが拒否したため、女性Bは男性Aを被告とし、2人の間の婚姻関係が存在することについての確認を求める訴えを提起しました。

かつては儀式婚制度

台北地方法院(地方裁判所)は審理した後、22年5月に、男性Aと女性Bの間の婚姻関係の存在を認定する、女性B勝訴の判決を下しました。

本件の重要なポイントは、07年5月以前において、台湾法上の結婚には、「儀式婚」制度、つまり、公然たる結婚の儀式が行われており、2人以上の証人がいれば、結婚は有効であるとする制度が採用されていましたが、07年5月の民法改正後においては、「登記婚」制度、つまり、夫婦が戸政事務所に一緒に行き、結婚登記を行うことにより、この結婚は初めて有効となるという制度が採用されるようになった、という点にあります。

本件において、男性Aと女性Bが結婚した時期は99年であり、公然たる結婚の儀式も行われており、また、多くのゲスト(証人)が招待されています。よって、当時の民法により、男性Aと女性Bの結婚は有効なものです。

重婚罪の可能性も

また、本件からさらに生じてくる法的問題として、次のことが挙げられます。

1.民法第985条では「(第1項)配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。(第2項)1人が2人以上と同時に結婚することはできない」と規定し、同法第988条では「第985条に違反した場合、結婚は無効とする」と規定しています。

本件の男性Aと女性Bの結婚が有効と認定された以上、男性Aの結婚して何年にもなる、既に結婚登記を行っている「後妻」は配偶者の身分を失い、男性Aと「後妻」との間に生まれた子も非嫡出子となります。

2.刑法第237条では「配偶者のある者が重ねて婚姻をし、または2人以上と同時に結婚した場合、5年以下の有期懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする」と規定しています。

本件において、男性Aは前後して2人の女性と結婚しているため、この重婚罪にも該当する可能性があります。

以上の法的問題は、たとえこの後男性Aと女性Bが「離婚」したとしても解決が難しい問題です。

よって、男性Aにとって適切な対応策としては、本件の一審判決に対し控訴を提起し、そして、二審において、女性Bとの和解などの方法を通じて本件を解決することが考えられます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。