第433回 裁判官を侮辱した場合の刑事責任

 台湾で先日、珍しい刑事事件が発生しました。劉という名字の男が開廷時に法廷で裁判官に水をかけ、「外にいる弁護士先生は全員入ってきてください、この恐竜裁判官(世論を理解しないしゃくし定規な裁判官)は庶民をいじめていますよ」などと大声で叫びました。

 桃園地方法院(地方裁判所)は2022年6月下旬に刑事判決を下し、この男の行為は「公務員侮辱罪」を構成すると認定して、2月の懲役に処しました。

審理に不満で悪態

 本件の概要は次の通りです。

 劉という名字の男が18年7月9日の午後に桃園地方法院の簡易法廷で、ある民事事件の口頭弁論手続に参加していた時、この男は、事件を担当するA裁判官が公正に審理していないと考えたため、手に持っていたボトルの水を当該裁判官に向かって浴びせかけ、「外にいる弁護士先生は全員入ってきてください、この恐竜裁判官は庶民をいじめていますよ」、「その席は『包青天』(中国史上で有名な裁判官)が座るところです。あなた(A裁判官)はどんな資格があって座っているのですか?」、「あなた(A裁判官)は両親に恥をかかせていませんか」、「あなた(A裁判官)が道を歩く時には車にひかれないよう気をつけなさいよ」などと大声で叫びました。

 A裁判官はその場で、「公務員侮辱罪」および「脅迫罪」の現行犯という理由でこの男を逮捕し、かつ桃園地方検察署(地検)に移送してその刑事責任を追及するよう警察に指示しました。

 これに対し、劉という名字の男は、過去2年間において自分の別の事件をA裁判官が不公平な態度で審理し、18年7月9日に2つ目の事件でまた同様の扱いを受けたため、ついに感情を抑えきれずに大声で悪態をついたのだと抗弁しました。また、この男は、自分がA裁判官に悪態をついたのは公務員を侮辱するためでなく自身の訴権を守るためであり、ましてや水は裁判官の身体にかかっていないと述べました。

侮辱罪で懲役2月

 この事件は桃園地方法院の刑事法廷で審理を行った後、最終的に22年6月下旬に、劉という名字の男の行為が刑法第140条の公務員侮辱罪(公務員が法により職務を執行する際に、その場で侮辱し、またはその法により執行する職務を公然と侮辱した場合は、1年以下の懲役、拘留、または10万台湾元=約45万円以下の罰金に処する)を構成すると認定し、2月の懲役に処しました。脅迫罪については無罪となりました。

 台湾では、圧倒的多数の裁判官は公平に事件を処理しますが、近年、争いのある判決が少なからず出現しているために裁判官に対する社会民衆の信頼性が大幅に低下しており、不適任な裁判官を「恐竜裁判官」と呼んでいます。

 弊所の考えとしましては、訴訟で不公正な裁判官に遭遇した場合でも裁判官に悪態をつくべきではありません。民事訴訟の原告である場合は、訴訟の取り下げを検討するのが比較的望ましいやり方です。再度提訴したときは、通常は、ほかの裁判官が審理することになります。

 被告である場合は、「裁判官が不公平である」ことの具体的事実を挙げて裁判官の交代を申請するのが望ましいやり方です。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。