第436回 2大小売りチェーンの結合事案、公取委が条件付きで承認

スーパーマーケット最大手、全聯福利中心(PXマート)が量販店大手の大潤発(RTマート)の株式の95.97%を取得する結合申請事案について、公平交易委員会(公平会、公正取引委員会に相当)は半年を超える審査を経て、2022年7月中旬に当該申請事案の承認を決議しましたが、同時に当該2社に対し、以下7つの条件を付けました。

小売価格は同一に

一、約束を確実に履行しなければならず、価格を勝手に引き上げてはならない。ただし、サプライヤー自身のコスト構造の変化による値上げなど、結合に参加した事業者の原因によらない場合はこの限りではない。

二、結合実施の翌日から3年間、「域内の各小売価格が同一であることを原則とする」。全域的な価格設定方針を維持しなければならないが、各地域における競争の状況に合わせて値下げを行うことができる。

三、結合実施の翌日から、個別のサプライヤーに対する付加費用を勝手に引き上げてはならない。ただし、サービスの追加により生じた付加費用についてはこの限りではない。

四、結合実施の翌日から3年間、RTマートはそのサプライヤーから商品の棚代、売り場新設の協賛金を受け取らない。

五、結合実施の翌日から3年間、サプライヤーに対する年度調達販売制度の変更および取引条件について、不利になる修正を行ってはならない。サービスの追加により生じる付加費用がある場合、当該サービスを使用するか否かはサプライヤーが選択および決定するものとし、また、事前に同意を得なければならない。

六、結合実施の翌日から、売買契約における「最恵待遇条項(サプライヤーが他のルートと定めた定価がより有利な条件であれば、その条件を双方の価格交渉の土台とすることを指す)」および履行方法に関する約定を削除する。

七、結合実施から3年間、毎年12月31日までに以下の資料を公取委の審査に提供する。

(1)スーパーマーケットと量販店の経営形態の相違について、「域内の各小売価格が同一であることを原則とする全域的な価格設定方針」を定め、各地域に権限を付与して特定の商品につき競争を強化させる具体的措置および実施の成果。

(2)小売ルートのサービスの質の向上などに関し、消費者にとって有益かつ多様な選択肢の具体的措置および実施の成果。

(3)サプライヤーとの間の年度調達販売制度の変更および取引条件の修正に関し、サプライヤーとの協議の過程、およびサプライヤーからの事前の同意取得の具体的措置および実施の成果。

(4)結合に参加した事業者の当年度の財務諸表、営業報告書および売買契約のサンプルなどの資料。

(5)全体的な経済利益に有益であることおよび結合に参加した事業者が自ら約束した事項についての成果報告。

全聯、RTマートはそもそも市場シェアが大きく、競合関係にあるチェーン店であるため、当該2社の合併により「サプライヤーの価格交渉能力が一段と弱まる」、「市場に競争が欠け、消費者の利益が損なわれる」などの懸念が生じることは必至であり、そのため公取委は珍しく、本件の許可処分においてこのように多くの条件を付けたのです。もっとも、当該条件が確実に実行されるか否かについては、注意を払う必要があります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。