第438回 日台間の同性婚について

 台湾では、同性婚を認めない民法の規定は違憲と判断した2017年の司法院大法官解釈(司法院釈字第748号)に従い、「司法院釈字第748号解釈施行法」が制定され、19年5月24日から同性婚が可能となりました。

 しかし、従来から存在する渉外民事法律適用法第46条には、「婚姻の成立は、各当事者の本国法(国籍を有する国の法律)による。」旨が規定されています。このため、台湾で台湾人が外国人と同性婚をしようとする場合、当該外国人の本国法においても同性婚が認められていなければ、当該結婚は認められないことになります。

 そして、日本国憲法第24条第1項と、日本の戸籍法第74条第1号では、「両性」や「夫婦」という用語が用いられていることから、日本法の規定は、異性婚を前提としていると解されます。このため、台湾でも台湾人と日本人の同性婚が認められないように思われます。

日本法を例外扱い

 しかし、22年7月21日、台北高等行政法院(行政裁判所)は、台湾人と日本人の同性カップルが提出した婚姻届を不受理とした台北市大安区戸政事務所の処分を取り消し、当該婚姻届の提出日である21年5月7日付の結婚登記を命じる判決(110年度訴字第1524号)を下しました。

 このような判決が下されたのは、渉外民事法律適用法第8条の「本法により外国法を適用するとき、その適用の結果が中華民国の公共の秩序または善良の風俗に反する場合、これを適用しない」という規定が適用されたからです。

ⅰ台湾において同性婚は法律秩序の一部になっていること

Ⅱ国民の自由平等権、人格の健全な発展等を保障するため、司法院は、渉外民事法律適用法第46条の改正草案(一方の本国法を適用することで性別関係により婚姻が成立しない場合、他方が台湾人であれば、台湾法によるとする規定)を制定しているところ、当該草案はまだ立法院で可決されていないものの、台湾の法律秩序の基本原則を証明するに足りること

から、日本法を適用する結果(同性婚ができない)は、同性婚が可能な現行の台湾の法律秩序に抵触するとされ、婚姻の成立について、例外的に日本法を適用しないと判断されました。

 本件は、台湾人と日本人の同性婚を認めた初の判決ですが、過去には、マレーシア人、マカオ人、シンガポール人との同性婚についても同様の判決が出ています。

 本判決の理由中にもある通り、外国人の本国法が同性婚を認めていない場合でも台湾での同性婚を認める内容の法案が出ているため、今後、台湾人と外国人との同性婚がより広く認められるようになる可能性が高いと思われます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。