第439回 論文の執筆を代行させた場合の法的責任

最近、台湾中の注目を集めている「政治家の林智堅氏(以下、林氏)が他人の論文を盗用した」問題について、新たな進展がありました。報道によりますと、「林氏は自身の論文の執筆をアシスタントに代行させたのであって、林氏自身が他人の修士論文を盗用したわけではない」とのことです。

本件の概要は次の通りです。林氏は2022年11月26日に投開票が行われる統一地方選挙で桃園市長候補として出馬する予定でしたが、先日、何者かが「林氏の台湾大学国家発展研究所の修士論文は、余正煌氏(以下余氏)という別人の修士論文を盗用したものだ」と告発しました。林氏は台湾での知名度が非常に高く、良いイメージを持たれているため、当該論文盗用問題は社会全体の高い関心を集め、台湾大学が盗用の事実の有無を調査することとなりました。

台湾大学は、1カ月余りの調査を経て、22年8月10日、「林氏の論文とそれよりも早く発表されている余氏の論文の内容は、誤字を含め、高度な重複が存在している」、「台湾大学は林氏に対し説明会への参加を3回要請したが、林氏はいずれも出席を拒否した」等の理由により、林氏が余氏の論文を盗用した情状は重大であると認定し、同日、林氏の修士学位を取り消しました。

学位授与法と著作権法に違反

しかしながら、最近メディアが「林氏は自身の論文の執筆をアシスタントに代行させたのであって、林氏自身が他人の修士論文を盗用したわけではない」と報じました。もしこの報道が事実であれば、当該アシスタントは30万台湾元以上100万元以下(約140万~450万円)の過料に処されます。その法的根拠は学位授与法第18条第1項第2号「次に掲げる状況のいずれかに該当する場合、行為者または責任者を30万元以上100万元以下の過料に処するものとし、かつ1回ごとに処罰することができるものとする。二、論文、作品、業績証明、書面報告、技術報告または専門実務報告につき、実際に執筆を代行した場合、または書き写せるよう口述、映像等によるカンニング行為をした場合」です。

また、当該アシスタントが余氏等の論文を盗用したのであれば、他人の著作権を侵害したという刑事責任も発生します。法的根拠は著作権法第91条第1項(無断で複製の方法をもって他人の著作財産権を侵害した場合、3年以下の有期懲役、拘留に処し、または75万元以下の罰金を科しまたは併科する)です。

台湾で論文の執筆代行、盗用は道徳的な問題であるばかりでなく、違法行為でもありますので、特にご留意ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。