第478回 憲法法廷が「弁護士事務所に対する捜索は違憲」と宣告

憲法法廷は2023年6月16日に2023年憲判字第9号判決を下し、刑事訴訟法第122条第2項および同法133条第1項の規定で弁護士と被告人・被疑者との間の文書資料を捜索・押収が可能な範囲から除外していないのは、憲法で保障する弁護士の勤労権および被告人の訴訟権に反しており、違憲であると認定しました。

本申立事件の概要は次のとおりです。

台湾の某有名法律事務所は11年5月30日、受任した某インサイダー取引案件により法務部調査局の職員から家宅捜索を受け、関連する文書資料を押収されました。同事務所は、当日の捜索行為について士林地方裁判所に抗告し、棄却された後、さらに「調査局の職員は、弁護士が犯罪に関係することを主張せずに、捜索実施時に、弁護士と委任者であるクライアントとの間のメール資料およびインサイダー取引とは無関係のほかの案件の資料を無断で閲読・検査し、憲法で保障されている被告人と弁護人間の信頼に係る権利、弁護士の勤労権を侵害している」などの理由で憲法解釈を申し立てました。

被告人の訴訟権保障を

憲法法廷は審理後、憲判字第9号判決において次のように判示しました。

1.弁護士とその委任者の間に、弁護人と被告人・被疑者の関係がある場合、その秘密裏にやり取りを行う権利は憲法で保障されるべきである。弁護士による弁護制度の主な目的は、冤罪が生じないよう、その委任者が国からの訴追に対抗するのに協力することであるため、双方間のこの部分のやり取りの記録および弁護士が作成した文書資料は「犯罪の証拠」から除外されるべきであり、国家機関は当然、上記資料を入手するために弁護士事務所に対して捜索を発動してはならない。

2.刑事訴訟法第122条第2項および同法133条第1項の規定において、弁護士または弁護人と被告人、被疑者、潜在的な被疑者との間の文書資料を捜索・押収が可能な範囲から除外していないことは、憲法で保障する弁護士の勤労権および被告人の訴訟権に反しており、立法機関は2年以内にこれを修正しなければならない。

弊所は、本件における憲法裁判所の判決に賛同します。なぜなら、検察官や警察が弁護士事務所を捜索し弁護士と当事者の間でやり取りされた文書を入手できるとなると、司法職員は労せずして成果を得ることができることになり、被告人が弁護士を任用し資料を提供した後で弁護士事務所を捜索すればよいことになってしまうからです。そうすると、被告人は弁護を行う弁護士に真相を打ち明けたり資料を提供したりしようとしなくなり、弁護士による弁護制度が著しく損なわれることになります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。