第481回 脅迫罪

台湾では先般、一風変わった訴訟事件がありました。当該事件の概要は次のとおりです。

高雄市の鄧という姓の男性が駐車スペースを一区画賃借していましたが、2022年10月に、張という姓の男性がその駐車スペースに自分の車両を無断で2日間も駐車しました。

鄧氏は、自分がお金を払って借りている駐車スペースなのに、張という男に占用されたと考えました。しかも電話番号も残されていなかったことから、憤慨して、「自分さえ良ければよいのか?このスペースは私が借りているんだ。停めるにしても電話番号くらい残しておくものだろう。2日間も停めて、相手の身になって考えてみろ。そっちにそういう気持ちがないならこっちにも考えがある。今度やったらロックしてやるからな」という内容のメモを書き、張氏の車に挟みました。

張氏はそのメモを見て怖くなり、鄧氏に対し脅迫罪の刑事告訴を行いました。

脅迫罪に該当、罰金6000元

当該事件の高雄地方法院(地方裁判所)での審理の際、鄧氏は自身がメモを残したことを率直に認めましたが、脅迫の意思があったことを否認し、「張氏に駐車し続けないようにしてほしかっただけ」だと弁明しました。

裁判官は、鄧氏はすでに成年に達しており、相当の社会経験を有しており、通常の観念に照らせば、当該メモは、その生命・財産が脅かされたと当事者に感じさせており、客観的に害悪の告知に該当すると判断し、その上、鄧氏は張氏と和解に達していないことから、鄧氏の行為は刑法第305条の脅迫罪に該当すると認定し、6000台湾元(約2万7000円)の罰金に処しました。

台湾刑法第305条では、「生命、身体、自由、名誉、財産に対し害を加えるとして他人を脅迫し、その安全を脅かした場合は、2年以下の懲役、拘留または9000元以下の罰金に処する」と規定しています。この罪の成立には、人に恐怖心を感じさせる脅迫行為があり、かつ安全を脅かす犯罪結果が生じたことが必要になります。

「安全を脅かす」か否かについては、往々にして客観的な基準がなく、裁判官個人の判断次第となっています。本件では、当該判決に対して多くの民衆が「裁判官は朝から晩まで悪人を助けて善人をいじめている」、「メモを書くだけで有罪になるんだから、みんな好き勝手に駐車すればよい」といったマイナスの評価をしています。

よって、自身の権利を守るためだとしても、逆に侵害者側に脅迫罪だと告訴されないよう、言葉遣いに注意する必要があります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。