第493回 ダフ屋逮捕、文化創意法改正後で初

新北市警察は2023年9月にダフ屋の周氏を逮捕しました。

周氏は自身のコンピュータ技術者としての専門能力を活用し、コンピュータプログラムを利用して、韓国の音楽グループ、BLACKPINK(ブラックピンク)やBTS(防弾少年団)、台湾のロックバンド、五月天(メイデイ)など人気の高いコンサートのチケットを大量に購入した後、それらを高額で転売し、2カ月余りの間に27万台湾元(約125万円)を超える利益を得ました。

この事件は、「文化創意産業発展法(以下『文化創意法』といいます)」の改正条文が23年6月に施行された後、はじめてダフ屋が逮捕された事件です。

転売しなくても犯罪

文化創意法第10条の1では、

「(第1項)政府は、民衆の文化創意活動に触れる権益を保障し、文芸公演のチケットの正常な流通を確保することに尽力しなければならない。

(第2項)文芸公演のチケットをその額面金額または定価を超える価格で販売した場合、チケットの枚数に基づき、主管機関が額面金額または定価の10~50倍の過料に処する。

(第3項)虚偽の情報やその他の不正な方法により、コンピュータまたはその他の関連設備を利用して文芸公演のチケットを購入し、チケットの予約および受取の証憑を取得した場合は、3年以下の懲役に処し、もしくは300万元以下の罰金を科し、これらを併科する。

(第4項)主管機関は前2項の規則違反の事実を調査し、または取り締まるために警察機関に人員派遣の協力を要請することができる。

(第5項)主管機関は第2項、第3項に定める行為の告発・摘発に対し、告発者の身分情報について厳格に秘密を保持しなければならないほか、事情を斟酌のうえ報奨を与えることができる。告発者の身分情報についての秘密保持は、訴訟手続においても同様とする。

(第6項)前項の主管機関が受理する告発事案の管轄、処理期間、秘密保持、告発者への報奨およびその他遵守すべき事項についての規則は、中央の主管機関が定める」と規定しています。

言い換えれば、新法の施行後、不正転売チケットの販売に対する罰金が大幅に引き上げられており、ダフ屋が特殊なコンピュータプログラムを用いてコンサートチケットを入手した場合、それを転売していなくても同様に刑事犯罪を構成することになります。また、ダフ屋を告発した消費者が報奨金を獲得することもできるようになりました。

しかしながら、インターネット上では人気の高いコンサートチケットの販売行為が今も数多く行われており、メディアの報道によれば、今の販売者はみな「自分たちはチケットを原価で販売しているのであって、価格を上乗せしてはいないため、文化創意法に違反していない。一定の金額の『代理購入料』、『労務報酬』、『行列並び料』」を受け取るだけだ」と公言しています。

このような手法が文化創意法第10条の1第2項の違法行為を構成するか否かについて、裁判所などの司法機関はまだ明確な見解を示しておりません。ダフ屋に対する取り締まりを法律で強化するほか、不正転売チケットの購入を民衆が自発的に拒否することが、ダフ屋の問題を徹底的に解決する根本的手段なのです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。