第520回 台湾法上の訴願

台北市政府は2024年5月6日に同年3月の違法名簿を公告しました。計60社が処罰を受け、過料は合計で496万台湾元(約2400万円)となっており、そのうち最高額は生命保険大手、南山人寿保険で、160万元の処罰を受けています。南山人寿は、かかる処罰は不合理であるため、すでに訴願を提起したと主張しました。

台湾の「訴願」制度は訴願法(以下「本法」といいます)に定められており、重要な規定は次のようになっています。

1.訴願の基本要件:本法第1条第1項では「人民は、中央または地方機関の行政処分について、それが違法または不当であるために自身の権利または利益が損害を被ったと判断した場合、本法に基づき訴願を提起することができる」と定められており、同法第3条第1項では、「本法における行政処分とは、中央または地方の機関が公法上の具体的な事件について行った決定または公権力によるそのほかの措置により対外的に直接法律効果を生じる一方的な行政行為を指す」と定められています。

従って、南山人寿は、台北市政府の処罰(行政処分)が違法または不当であり同社の利益を損なっていると判断した場合には、訴願を提起することができます。

2.訴願の提起期限:本法第14条第1項では「訴願の提起は、行政処分の送達または公告期間終了の翌日から30日以内に行わなければならない」と定められています。言い換えれば、南山人寿は、台北市政府の処罰書を受領した後30日以内に訴願の提起を行わなければ、適法な訴願にはなりません。

3.訴願の提起方法:本法第56条によると、訴願の提起は書面で「訴願書」を提出しなければならず、また、訴願書には訴願人の氏名(社名)、もとの処分機関、請求事項、訴願提起の対象事実と理由などの事項を記載しなければなりません。

4.訴願の管轄機関:本法第4条では、「郷(鎮、市)の役所による行政処分に不服がある場合は、県(市)政府に訴願を提起しなければならない」、「県(市)政府に属する各級の機関による行政処分に不服がある場合は、県(市)政府に訴願を提起しなければならない」などを含め、訴願の各種管轄機関について定めています。南山人寿の事案については、台北市政府労働局の処分ですので、台北市政府の訴願審議委員会に訴願を提起しなければなりません。

5.訴願の決定を下す期限:本法第85条第1項では「訴願の決定は、訴願書受領の翌日から起算して3カ月以内に下さなければならない。必要に応じて、訴願人および参加人に通知した上で延長することができる。延長は1回限りとし、最長で2カ月を超えてはならない」と定められています。

企業および個人は、台湾政府から過料通知を受領した場合、基本的には訴願制度を通じて不服を表明することが可能ですが、実務の取扱経験からすると、訴願が成功する確率は高くありません。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。