第573回 司法の公正を妨害する罪

2025年5月28日、台湾政府は最新の「司法の公正を妨害する罪」(以下「新法」といいます)を公布しました。新法は、不法な口利きや司法手続への介入などの行為を取り締まるものであり、司法の独立性および公正性の強化を目的としています。台湾における司法改革の重要なマイルストーンを示すものです。

不正な利益約束や口利きに罰

新法の主な条文は以下のとおりです。

刑法第172条の1第1項:「証人、鑑定人、専門家証人または通訳に対し、不正な利益を申し出、約束または交付して、証言、鑑定もしくは通訳を行わないことを約し、または特定の証言、鑑定もしくは通訳を行うことを約した者は、3年以下の懲役に処し、30万台湾元以下の罰金を併科することができる。」

刑法第172条の3:「(第1項)「司法事件の捜査、審判または執行において、裁判官、検察官に一定の裁判、処分、捜査終結、上訴、抗告または執行指揮の命令を行わせないようにする、または行わせることを企図して、職務、身分または地位による影響力を利用して、裁判官、検察官またはその指揮監督を行う上官に対し不法な口利きを行った者は、5年以下の懲役に処し、50万元以下の罰金を併科することができる。

(第2項)前項の不法な口利きにより、裁判官、検察官が一定の裁判、処分、捜査終結、上訴、抗告または執行指揮の命令を行わなかった、または行った場合は、1年以上7年以下の懲役に処し、100万元以下の罰金を併科することができる。」

「構成要件が抽象的」

新法の公布後、社会各界では反応が分かれました。

支持者は、新法には権力による司法介入を防止し、司法に対する信頼を高める効果があると評価しています。

一方で、批判的な意見も存在しています。特に刑法第172条の3第1項における「職務、身分または地位による影響力を利用して、裁判官、検察官またはその指揮監督を行う上官に対し不法な口利きを行った者」という構成要件が抽象的で、「単なる希望の表明」と「不法な口利き」との区別が困難であるとの指摘もあります。

「司法の公正を妨害する罪」の立法は、司法改革における大きな一歩ではあるものの、構成要件の適用に関して疑義が残ることは否定できず、今後は判例の蓄積を通じて制度を整備することが求められるでしょう。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。