第579回 法人の名誉・信用侵害と損害賠償

台湾の民法第195条では、「他人の身体、健康、名誉、自由、信用、プライバシーもしくは貞節を不法に侵害した場合、またはその他の人格法益を不法に侵害しその情状が重大な場合、被害者は、財産上の損害でない場合であっても、相当の金額の賠償を請求することができる」旨が規定されています。また、同法第227条の1では、債務者は、債務不履行により債権者の人格権が侵害された場合、同法第195条等の規定を準用して損害を賠償する責任を負う旨が規定されています。

これらの規定に関して、債務不履行により法人の名誉または信用が侵害され、当該法人が非財産上の損害を受けた場合に、当該法人が債務者に対して損害賠償を請求することができるかどうかについては見解が分かれていました。

しかし、2025年6月20日、最高法院民事大法庭は、当該論点について、法人の名誉または信用の侵害についても損害賠償請求が可能であるとの判断を下しました。

取引先に損害賠償請求

当該事案は、2019年にA社がB社に対して発光ダイオード(LED)電球を売り渡したものの、B社がその代金を支払わないため、A社がB社に代金の支払いを請求したものです。

B社は、納入されたLED電球の一部に瑕疵があり、B社が販売したLED電球を回収せざるを得なかったが、この事実がメディアに大々的に報じられ、B社の信用が害されたので、その損害賠償債権とA社の代金債権を相殺する旨の主張をしました。

この主張について、原審は、B社の主張が真実であったとしても、法人であるB社に精神的苦痛はなく、A社に対して非財産的損害賠償を請求することはできないと判断しました。しかし、最高法院民事大法庭は、原審の判断を覆し、上記のとおり判断しました。

上記事案のように、取引先の債務不履行が原因で会社の名誉や信用が害される場面は珍しくないと思われます。このような場合、今後は、最高法院民事大法庭の上記判断を根拠として、取引先に対して損害賠償を請求することも考えられます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。