第581回 資金洗浄

台北地方裁判所が先日、資金洗浄(マネーロンダリング)事件に関する判決を下しました。

中華圏の女性最強アーティストである蔡依林(ジョリン・ツァイ)のダンス教師を以前務めていた張という被告は、自身の銀行口座を、詐欺の手段として詐欺グループに1000台湾元(約5000円)相当の対価で売却したことが裁判官に認定され、資金洗浄防止法(以下「本法」)第14条に基づき、3月の有期懲役、罰金1万元の併科を言い渡されました。

資金洗浄の定義

本法第2条によれば、「資金洗浄」とは、次のいずれかの行為を指します。

一、特定の犯罪所得を隠匿し、またはその出所を偽装すること

二、国が特定の犯罪所得の調査、発見、保全、没収または追徴を行うことを妨害し、または危害を加えること

三、他人の特定の犯罪所得を受領し、保有し、または使用すること

四、自己の特定の犯罪所得を使用して他人と取引を行うこと

口座の売買・譲渡

本件において、張という男は2023年5月に、自身の第一商業銀行の口座を1000元の対価で詐欺グループに売却して使用させました。その後、詐欺グループは「あなたの銀行口座は凍結されています。凍結を解除するためには先に数万元を振り込まなければなりません」などという言葉で洪という被害者を騙し、洪という男性に張という男の口座に3万元を振り込ませました。張という男は受け取った後、詐欺グループが指定したビットコイン取引口座に送金し、ビットコインを購入した後、海外に送金しました。

このため、裁判所は改正前の本法第14条第1項(第2条各号に掲げる資金洗浄行為を行った者は、7年以下の有期懲役に処し、500万元以下の罰金を併科する)に基づき、張という男に3月の有期懲役、罰金1万元の併科を言い渡しました。

本件において、張という男は、自身は詐欺グループに騙されて口座を提供しただけであり、資金洗浄行為という犯罪に手を染める故意はなかったと主張しました。しかし実務上、このような主張をする口座提供者のほとんどは、有罪判決を受けることになります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。