第582回 医療機器の特別承認制度

 医療機器の使用に規制が必要とされますが、緊急時や特殊な医療ニーズに迅速に対応できる制度の整備も重要となっています。台湾では2019年に「医療機器管理法」が成立し、それまで運用されていた「特別承認制度」も含まれています。この制度は、通常の承認プロセスよりも迅速に医療機器の製造や輸入を認めることができる仕組みです。

過去の実例

 たとえば、15年に発生した「八仙水上楽園爆発事故」では、多くの重篤な火傷患者が出ました。この際、日本製の治療用ガーゼや人工皮膚が必要とされ、台湾の規制当局である「衛生福利部食品薬物管理署(TFDA)」は半日以内に特別承認を完了させ、これらの医療機器の輸入を可能としました。こうした迅速な対応が、多くの命を救うことにつながったのです。

現行の特別承認制度

 現行の医療機器管理法第35条および第36条に定められた特別承認制度では、以下のような場合、迅速な承認が認められています。(1)命に関わる重篤な疾病や障害で、国内に代替手段がない場合、(2)パンデミックなどの公衆衛生上の緊急事態の場合、(3)治験や性能評価など研究目的の場合、(4)個人使用や贈答用、修理など非販売目的の場合、(5)必要な医療機器の供給が不足している場合です。

 この制度は、柔軟性とスピードを重視しつつ、医療の質を守るための重要な仕組みとなっています。ただし、特別承認を受けた医療機器であっても、状況の変化、たとえば代替治療法の出現や安全性への懸念、公衆衛生事態の収束などがあれば、TFDAはその承認を取り消し、製品の回収を命じることができます。

 特別承認制度は、緊急時などの場合に必要な医療を迅速に提供するための重要な制度であり、今後も、運用がより的確かつ円滑に進められることが期待されます。ただし、本制度もあくまで法律に基づいて運用されるものであり、完全無制限に医療機器の輸入が認められるわけではあないため、特別承認の活用を検討する際には、関連する法的規定を十分に理解し、誤って違法な輸入行為に該当しないよう、必ず専門家に相談するなど、慎重な対応をお勧めします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。