第638回 ネット晒しと個人情報保護法

台湾でも、SNS上のトラブルで相手の顔写真やチャット画面を「晒す(さらす)」行為は、台湾の個人情報保護法違反の罪に問われることがあります。

今回は、ライブ配信で相手を晒して有罪となった地方裁判所の裁判例と、その前提となる最高裁判所大法廷の統一見解を紹介し、留意すべき点を説明します。

顔写真晒しが「犯罪」に

ある事案では、被告が元交際相手をめぐるトラブルから、ライブ配信アプリで、相手の顔が写ったチャット画面の画像を不特定多数が閲覧可能な状態で次々と投稿し、相手が視聴者に身元を特定され攻撃される事態となりました。

裁判所は、顔写真は氏名の表示がなくても本人を直接識別できるという点から個人データに当たるとし、相手の人格的利益を害する意図があったとして違法利用の罪で有罪判決を下しました。

大法廷の統一見解

有罪とした前提は、最高裁判所大法廷の統一見解です。大法廷は、同法第41条の「他人の利益を害する意図」の利益は財産上の利益に限られず、名誉やプライバシーなどの人格権も含むとの見解を示しました。立法の際にも、他人にデータを渡して第三者に攻撃させる場合が想定されていました。

営利目的がなくても成立

本件では、被告は金銭を得ていませんが、相手の顔という個人データを晒し、視聴者をあおって相手を攻撃させ、その人格的利益を害する意図があった以上、処罰の対象となります。

もっとも、同法違反のすべてが刑事罰の対象となるわけではありません。単に利用上のルールに違反しただけで、情報プライバシー権を超えて利益を害する意図がなければ、行政罰にとどまるケースもあります。しかし相手を晒して攻撃をあおる行為はその一線を越えるものであり、5年以下の懲役に処せられ、100万台湾元以下の罰金を併科される可能性があります。

台湾で生活し働くうえで知っておきたいのは、相手の顔写真やチャット画面をSNSに載せて「晒す」行為は、営利目的でなくても、また相手の氏名を出していなかったとしても、同法違反の罪に問われる可能性があるということです。トラブルがあっても、相手の個人データを公開して攻撃をあおることは避け、正規の法的手続で争いを解決することが、思わぬ刑事責任の回避につながります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。

 

MENU