第16回 従業員と会社との法的関係

台湾新竹地方裁判所は2013年1月3日、12年度労訴字第79号の判決を言い渡し、従業員と会社との法的関係が「労働関係」であるのか「委任関係」であるのかについては、従業員の職務名などを区別の基準とするのではなく、職務上の従属性、服従性などにより判断しなければならないとの判示を行った。

「委任関係」を主張、解雇手当拒否

本件事案は、被告(元支配人)が正当な理由なく原告(会社)を解雇したとして、労働基準法の規定に基づき、原告が被告に対し60万台湾元の解雇手当などを請求したものである。被告は「原告の職務名は一般的な委任契約においてよく使用されている『支配人』であり、被告との関係は『労働関係』ではなく『委任関係』であるため、労働基準法は適用されない」と反論して、解雇手当の支給を拒んだ。

強い服従義務、「労働関係」を認定

裁判所は審理の結果、次の通り判断した。

「従業員と会社との法的関係における労働と委任の区別において、労務提供者の職務名、職務内容、報酬の多寡などのみを判断基準とするべきではない。労働契約では、従業員は職務上および組織上、雇用主に従属し、雇用主の指示に対して強い服従義務を有する。それに対し、委任契約は委任事務の完了を目的としており、また、委任契約では一定の事務の処理が委任され、委任者の授権の範囲内で、受任者は自らの裁量により一定の事務の処理方法を決定することができる。本件において、原告の職務名は、一般的な委任契約においてよく使用される『支配人』であるが、実際には原告は職務上、被告に対し強い服従義務を有し、かつ被告は原告の雇用に当たって、会社法における支配人選任の手続きを経ていないため、原告は会社法における委任された支配人でもない。従って、原告と被告の関係は労働関係であり、労働基準法が適用されなければならない」。

外国企業が台湾において従業員を雇用する際、「支配人」という職務名で契約する場合でも、雇用と判断され、労働基準法が適用されるケースがあることに注意する必要がある。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。