第23回 授権資本額の範囲内での減資および増資について

最高裁判所が2013年5月1日に下した13年度台上字第808号民事判決によれば、会社の減資、増資が会社定款の授権資本額の変更に関わる場合には株主会の特別決議を行わなければならないが、授権資本額の範囲内の減資、増資である場合には株主会の普通決議を行えばよいことになった。

本件の紛争の概要は以下の通りである。

甲、乙、丙、丁、戊はいずれもA株式会社の株主であり、甲はA社の株式の41%を保有し、乙、丙、丁、戊はA社の株式を合計で59%保有している。10年、A社の経営状況の悪化などを受けて財務構造を調整するため、乙、丙、丁、戊は株主会においてA社の資本金を1億7,990万台湾元減資してから7,990万元増資することを決議した。甲は提訴の上、「減資、増資はいずれもA社に対し重大な影響を与える決定であり、株主会の特別決議(すなわち、発行済み株式総数の3分の2を代表する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数が同意する決議)を行わなければならない。乙、丙、丁、戊の持ち分はわずか59%であり、甲は株主会に出席していないため、議決手続きは違法であり、今回の決議は成立しない」と主張した。

授権資本か払込資本かで判断

最高裁判所は審理の上、以下の通り判断した。

会社法は株式会社について授権資本制を採用しており、同法第156条第2項の規定に基づき、定款に記載されている株式総数は分割発行することができる。従って、株式会社の資本は「授権資本」と「払込資本」に分けることができ、もし定款に記載されている授権資本を変更する場合には株主会の特別決議をもって定款を変更する必要があるが、払込資本のみを変更する場合には定款変更の必要はないため、普通決議(すなわち、発行済み株式総数の過半数を代表する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数が同意する決議)を行えばよい。本件において、A社の授権資本は3億元、払込資本は1億8,000万元であり、乙、丙、丁、戊は株主会において、「まず1億7,990万元を減資してから7,990万元を増資した後、払込資本額を8,000万元に変更する」という決議を行っており、これは授権資本額の範囲内であり、普通決議を行えばよいため、甲の敗訴という判決を下す。

会社の資本額の変更が、授権資本の変更であるか払込資本の変更であるかによって議決に関する規定が異なる点に特に注意する必要がある。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。