第53回 職場でのセクシャルハラスメントの責任

台湾の性別工作平等法(男女雇用機会均等法に相当)第12条の規定によれば、「セクシュアルハラスメント」は「環境型セクハラ」と「対価型セクハラ」の2つに分けられる。

「環境型セクハラ」は、「被用者が職務を執行するとき、ある者が性的要求、性的な意味を有するまたは性差別的である言葉や行為をもって、敵意、脅迫感、不快感を被用者の就労環境にもたらし、被用者の人格の尊厳、身体の自由を侵しまたは妨げ、その業務遂行に影響を与えること」を指す。例えば、上司である男性が部下である女性に対し胸の大きさを指摘したり、わいせつな画像が含まれる電子メールを送り付けたり、体を触ったりすることである。

「対価型セクハラ」とは、「雇用主が被用者または求職者に対し、明示・暗示の性的要求、性的な意味を有するまたは性差別的な言葉や行為をもって、労働契約の成立、存続、変更または分配、配置、報酬、考課、昇進、降格、賞罰などの交換条件とすること」を指す。例えば、上司である男性が部下である女性に対し、自分との交際を昇給の条件とすることである。

不明確な状況に注意

上記のように明確にセクハラを構成する行為のほか、実務においては、セクハラを構成するか否かが不明確である状況がしばしば発生している。よくある事例としては、下ネタジョークがセクハラを構成するか否かである。これについては、通常、客観的な第三者およびジョークを聞いている相手の両者が不快に感じるか否かが基準であり、もし両者が不快に感じる場合、たとえジョークを言った人が主観的に他者に対しセクハラを行う意図を有していなくても、法律上、セクハラを構成するため、注意すべきである。

セクハラ行為の法的責任は主に以下の3つに分けられる。

1.行政上の責任

セクハラ防止法第20条によれば、「他者に対しセクハラを行った場合、直轄市、県(市)の主管行政機関が1万台湾元以上10万元以下の過料に処する」。

2.刑事上の責任

セクハラ防止法第25条によれば、「セクハラを意図し、抵抗・拒絶する間もなくキス、抱擁または臀部(でんぶ)、胸部もしくはその他身体のプライバシー部位に触る行為を行った場合、2年以下の懲役、拘留または10万元以下の罰金に処し、あるいはこれらを併科する」。

3.民事上の責任

セクハラの行為者が上記の行政上の責任および刑事上の責任を負うほか、被害者はさらに民法第184条に基づき行為者に対し名誉上、精神上などの損害賠償を請求できる。

また、性別工作平等法第13条には「雇用主はセクハラ行為の発生を防止しなければならない。雇用主は被用者を30人以上雇用する場合、セクハラの防止措置、申し立ておよび懲戒に関する規則を定め、かつ勤務場所において公開掲示しなくてはならない」と規定されており、これに違反した場合、同法第38条の1の規定に基づき10万元以上50万元以下の過料を科されるため、十分注意しなければならない。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。