第83回 台湾は「貸主天国」!?日本の借地借家法と台湾法の相違点

台湾に進出した日系企業の多くは、次のような状況に出くわしたことがあると思います。

台湾で店舗またはオフィスを借り、2、3年経営に尽力し、やっと採算が取れるようになってきたものの、賃貸借契約期間が満了する際、大家が賃料の大幅な引き上げを要求し、条件をのまなければ契約を更新しようとしないため、日系企業の多くが、顧客の流出や、移転にかかる時間、内装費などを考慮して、泣く泣く賃料の値上げを受け入ざるを得ないことがあります。

優れた日本の借地借家法

前述のような、大家が賃貸借期間満了の際に、突然賃料を大幅に引き上げるという状況は、日本ではあまり生じません。その主な理由は、賃借人に対する日本法の保護が台湾法よりはるかに優れているからです。日本の借地借家法第26条第1項は、「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年から6カ月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものと見なす。ただし、その期間は定めがないものとする」と定め、同法第28条は、「建物の賃貸人による第26条第1項の通知または建物の賃貸借の解約の申し入れは、建物の賃貸人および賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況および建物の現況ならびに建物の賃貸人が建物の明け渡しの条件として、または建物の明け渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申し出をした場合におけるその申し出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」と定めています。

つまり、日本法では、大家が賃貸借期間満了の際に、更新を望まない場合、少なくとも6カ月前までに前もって借家人に通知しなければならないだけでなく、正当な事由もなければなりません。いわゆる「正当な事由」について、実務上の典型的な事例には、「貸主が賃貸から10数年後転勤から戻って自分のアパートに暮らしたい」「建物が老朽化しているため、引き続き賃貸すれば危険」などが含まれます。家賃の値上げについて、基本的には「正当な事由」には該当しないため、借家人が同意しなければ、大家が賃貸借期間の満了後に賃料を大幅に引き上げることは極めて困難であると言えます。反対に、台湾法では、日本の借地借家法第26、28条に類似する規定がないため、賃貸借期間の満了後、大家は自由に賃料を引き上げることができることから、台湾は「貸主天国」であると言え、日本は「借主天国」であると言えます。

日台の意識相違に注意

近年円安により、台湾の法人、富裕層の間で、日本で不動産を購入し、賃貸することが流行していますが、台湾人には前述の日本の借地借家法のような法意識がないため、建物を賃貸した後、賃料の引き上げが困難であることに気付くことになります。反対に、日本人が台湾で建物を借りるとき、大家による賃料引き上げの行為について往々にしてなすすべがありません。

実は、「借主天国」の日本であるか「貸主天国」の台湾であるかにかかわらず、事前に日本法、台湾法に精通している法律の専門家に相談すれば、契約条項を設定するなどの方式により、適法かつ十分に自己の権利を保証することができますので、日本で大家になることを希望する台湾人(台湾企業)、または台湾で借家人になることを希望する日本人(日本企業)は、参考にして下さい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。