第114回 就業サービス法において規制される外国人労働者による「労働」の趣旨

台湾の就業サービス法第43条に、外国人は台湾において、使用者が関連政府機関から許可を得ない限り労働できないとされている。

これに関して、就業サービス法における「労働」とは、労務を提供する行為または労働の事実を有する行為を指し、その時間の長短とは無関係であるとされている。このため、外国人に労務を提供させる場合、一時的または臨時的な労働であっても、就業サービス法上の「労働」に該当することから、使用者は、事前に関連政府機関から許可を得る必要がある。

この点が問題となった裁判例として、台南地方裁判所の行政法廷が2013年4月24日に下した13年度簡字第6号行政訴訟簡易判決がある。

「労働」の範囲外と主張

本件の概要は以下の通りである。

甲は、外国籍の看護婦Aに、病院で甲の母親の看護をさせることについて、関連政府機関から適法な許可を得ていた。しかし、甲はその後、一時的にAに代わって、関連政府機関から許可を取得していない外国人Bに甲の母親の看護をさせた。

この件について、警察の告発を受けた台南市政府は、就業サービス法第43条、第44条(違法に外国人を就労させることの禁止)、第63条第1項(第44条の規定に違反した場合の罰金)等の規定に基づき、甲に対し15万台湾元の罰金を科した。

甲は台南市政府の処罰を不服として、当該処分の取り消しを求める行政訴訟を裁判所に提起した。甲は「就業サービス法の立法趣旨は台湾人の労働権を保障することであり、外国人による台湾における行為が台湾人の就業の機会を排除するものでなければ、就業サービス法に規定される『労働』の範囲外である。Aが甲の母親を看護することについては適法な許可を得ており、Aが一時的に勤務できなくなったため、Aに代わって臨時にBに依頼することは、本国人の労働の機会を排除するものではなく、就業サービス法に規定される『労働』でもないため、違法行為は構成しない」と主張した。

短時間の労働でも許可必要

これに対し、台南地方裁判所の行政法廷は甲の主張を退けた。同裁判所は、「就業サービス法における『労働』とは労務を提供する行為または労働の事実を有する行為を指すものであり、その時間の長短とは無関係である。甲がBに母親の看護を依頼した事実がある以上、労務を提供する行為に該当し、当然、就業サービス法における『労働』の範囲内にあると言える。しかも、甲はAに母親の看護をさせることについて事前に適法な許可を得ている以上、外国人であるBに労務を提供させる場合にも事前に許可を得なければならないことを知っていたはずである」と判決理由を説明した。

以上の通り、外国人に一時的または臨時に労務を提供させる場合でも、使用者は事前に関連政府機関の許可を得なければならないことに注意する必要がある。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。