第126回 董事と株式会社間の法律関係の終了

会社法第192条第4項では、株式会社と董事(取締役)間の関係は、別段の定めがある場合を除き、民法の委任に関する規定によると規定されており、民法第549条第1項では、いずれの当事者も、委任契約を随時終了することができると規定されている。

以上より、董事と株式会社間の委任関係は随時終了することができると解され、裁判例(台湾高等法院高雄分院の2013年度上字第38号民事判決)でも、この旨明示されている。

会社が辞任要求を保留できる?

上記裁判例の概要は以下の通りである。

甲はA社の董事であり、09年9月7日に同じくA社の董事である乙および丙宛てに内容証明郵便を発送し、董事の職務を辞する旨の意思を伝えた。しかし、A社は甲の董事辞任の変更登記を行わなかったため、会社の登記事項と実際の状況に食い違いが生じた。そこで、甲は、A社を被告として、甲とA社との間に董事の委任関係が存在しないことの確認を求める訴えを提起した。これに対し、A社は、甲にはA社において1,000万台湾元余りの横領の疑いがあり、当該甲の責任を追及するために甲の辞任要求を拒否している最中であることから、甲とA社間の委任関係は存在すると主張した。

委任契約は随時終了可能

裁判所は、次のように判断し、A社の主張を退けた。

会社法第192条第4項では、株式会社と董事間の関係は、本法に別段の定めがある場合を除き、民法の委任に関する規定によるとされており、民法第549条第1項では、いずれの当事者も、委任契約を随時終了することができ、また同条第2項では、一方の当事者が、他方当事者にとって不利な時期に契約を終了する場合、損害賠償責任を負わなければならないと規定されている。

本件において、甲は09年9月7日に内容証明郵便にてA社のその他の董事である乙および丙に通知し、董事の職務を辞する旨の意思を伝えており、また乙および丙は同日に当該書簡を受領しているのだから、上記の会社法および民法の規定に基づき、甲とA社との間の董事の委任関係は09年9月7日をもって終了している。A社は、甲には横領などの疑いがあるため、甲は委任契約を終了することにより責任を逃れることはできないと主張するが、甲がA社にとって不利な時期に委任関係を終了したとしても、民法第549条第2項の規定によれば、甲がA社に対し損害賠償責任を負うか否かということが問題となるだけであって、甲による委任関係の終了の効力に影響を及ぼさない。

本裁判例の通り、董事は理由なくいつでも辞任することができ、会社側は法律上、董事の辞任を阻止することができないことに注意が必要である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

(本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに執筆した連載記事を転載しております。)