第149回 事業および日常生活に深く関わる物権の主なポイント

物権とは、動産または不動産を直接的に(他人の行為を介さずに)支配する権利を指す。台湾においては、日本と同様、所有権をはじめとする物権は事業および日常生活に深く関わっているものである。例えば、コンビニエンスストアで新聞紙を買う場合にも、新聞紙の所有権の移転というような物権の変動が生じる。そこで、今回は、以下の通り、事業および日常業務などに関係する物権のうち、主な点について説明する。

1.不動産に関する物権の移転等

不動産に関する物権の移転などについては、口頭で不動産売買契約などを締結してもよいが、実際に不動産所有権そのものを移転しようとする場合には、書面を作成しなければ移転することができないという物権行為説に基づき、法律行為により不動産に関する物権を取得、設定、喪失、または変更する場合、登記を経なければ効力が生じず、またこれらの行為は書面により行わなければならないとされている。

2.所有権以外の物権に関する妨害排除・予防請求権

所有権については、「所有者は所有物を侵奪する者に対し、その返還を請求することができる。その所有権を妨害する者に対し、これを排除するよう請求することができる。その所有権を妨害するおそれがある者に対し、その予防を請求することができる」という規定が設けられている。

地上権、地役権、質権、抵当権、留置権などの所有権以外の物権についても、上記所有権の規定が準用され、当該物権が妨害され、または妨害される恐れがある場合に、これを排除・予防することができる。

3.共有物の管理

共有者は、過半数の共有者の同意および過半数の持分をもって、その共有物の管理行為を実施することができるとされている。なお、管理行為に同意する共有者の持分が3分の2を超える場合、過半数の共有者の同意という要件は不要となる。

ただし、上記に基づいてなされた管理行為が明らかに不公平である場合、管理行為に同意しない共有者は、管理行為を変更させるよう裁判所に申し立てをすることができる。さらに、管理行為を決定する際、その管理行為の決定が故意または重大な過失により、当該管理行為に同意しない共有者に損害をもたらした場合は、管理行為を決定した者は当該管理行為に同意しない共有者に対し、連帯して賠償責任を負う。

4.共有物の分割

協議で分割方法を決定できない場合のほか、分割の請求権の消滅時効が完成した後に、共有者の一方が分割を拒否した場合には、共有者は裁判所に対し共有物分割の申立てをすることができる。

なお、裁判による共有物の分割の方法については、原物の配分が明らかに困難である場合、共有物を売却し、その代金を各共有者に配分し、または原物の一部を各共有者に配分し、他の部分を売却し、その代金を各共有者に配分することができるとされている。すなわち、裁判所は共有物の分割方法を判断する際、原則的には原物の分割をするべきであるが、原物の分割が困難であることが明らかな場合には、裁判所は、原物の全部を売却し代金を各共有者に配分すること、または原物の一部を各共有者に配分し、他の部分を売却しその代金を各共有者に配分することを命ずることができる。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。