第154回 雇用主が労働者の職務を変更する際の適法な条件について

台湾高等裁判所は2016年2月23日に15年度重労上字第17号判決を下し、「雇用主が労働者の職務を変更しようとする場合、内政部の85年9月5日の台内労字第328433号書簡における5つの原則に従って行わなければ有効とはならない」と指摘した。

本件の概要は以下の通りである。

甲は09年6月、台湾の有名な百貨店乙に入社。プロダクトマネージャーの職務を担当し、月給は5万3,000台湾元であった。その後、乙は甲を顧客サービス部の課長に変更、それにより甲の月給は4万6,000元に減額された。甲は乙による職務変更および減給に同意せず、乙を被告として、もともとの賃金との差額の支払いを要求した。

多くは労働者側に立った判決に

裁判所は審理の上、甲の勝訴とする判決を下した。主な理由は以下の通りである。

1.雇用主は労働者の職務を変更しようとする場合、内政部の85年9月5日の台内労字第328433号書簡における以下の5つの原則に従わなければ有効とならない。

(1)企業の経営上、必要であること

(2)労働契約に違反してはならないこと

(3)労働者の賃金およびそのほかの労働条件に対し不利な変更を行わないこと

(4)職務変更後の業務と従来の業務がいずれも性質上、労働者の身体能力および技術により堪え得るものであること

(5)職務変更後の勤務場所が遠過ぎる場合、雇用主は必要な協力を行わなければならないこと

2.乙は、甲に対する職務変更行為が上記の5つの要件に合致していることを証明する十分な証拠を提出していない。

3.甲は乙の職務変更処分に基づき新たな職位において引き続き数年間勤務していたが、これは、甲が乙の職務変更処分に同意したことを示すものではない。

実務では、雇用主と労働者との間の職務変更紛争について多くの裁判官が労働者側の立場に立っているため、類似の事案において、大部分は労働者が勝訴している。従って、企業が労働者の職務を変更しようとする場合、上記の5つの要件に合致しているかに注意する必要がある。明らかに合致しない場合には、事前に労働者の同意を得た方がよい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。