第163回 台湾の株式公開発行について

台湾の株式会社が株式を発行し資本を調達する場合、公開発行か非公開発行かを選択することができる。公開発行の場合には、証券交易法に基づき行う必要がある。一方、非公開発行の場合は、原則として会社法に基づき行うことになる。

公開発行された株式はその取引方法によって、主に3種類に分類される。

第1は、「台湾証券取引所」(http://www.twse.com.tw/ch/index.php)で登録・取引されるもので、通称「上場株式」といわれる。

第2は、「証券店頭売買センター」で登録・取引されるもので、その取引の成熟度およびコントロール規範の別により、さらに「店頭公開株式」および「新興株式」の2つに分類される。

通常、株式発行・取引の多くは新興株式から開始される。この新興株式の取引が比較的成熟すると店頭公開される。これを店頭公開株式という。

第3は、公開取引されないものである。台湾では、公開発行された株式であっても、取引所において登録・取引されることを強制されない。しかし、取引所において登録されなかった株式を公開取引すれば、証券交易法違反となる。

非公開発行の株式も、当然公開して取引することはできない。

公開発行の株式に関しては、投資家が迅速に会社情報を取得できるようにするため、証券交易法第36条に基づき、発行者には定期的に財務諸表を開示する義務があるほか、「株主の権利・利益、または証券の価格に重大な影響を及ぼす」事項が発生した場合は、当該事項発生後、自らそれらを開示し、かつ別途台湾の証券所管官庁にも報告しなければならない。なお、現在、台湾の証券所管官庁は、金融監督管理委員会(金管会)の下にある証券先物局である。

現在、公開株式発行会社の重大事項の開示は、台湾証券取引所の準オフィシャルサイトである「公開情報観測システム」を通じて行われている。公開株式発行会社はそれぞれ、証券交易法第36条の該当事項発生後、自ら「公開情報観測システム」のウェブサイト上に当該事項を記載して情報を開示しなければならず、また錯誤、遺漏および不実についての責任は自ら負わなければならない。また、開示すべき情報を開示しないなど、開示義務に違反した場合は、証券交易法に基づき、行政上の処罰が課される。さらに、取引所内で取引が行われている株式について開示義務違反があった場合には、取引所に対しても義務違反となるため、取引所はこうした違反行為に対し、違約金の支払いを要求することができ、場合によっては当該株式の売買を停止することもできる。

このほか、証券交易法施行細則第7条では、いわゆる「株主の権利・利益、または証券の価格に重大な影響を及ぼす」事項について、8つの規定が列挙されている。例えば、▽会社に手形の支払拒絶、信用喪失が発生した場合(第1号)▽第三者との間で訴訟が生じ、会社の財務または営業に重大な影響が生じた場合(第2号)▽戦略的提携、業務提携計画、新製品の開発試験、他企業の買収、知的財産権の取得または販売等により、会社の財務または業務に重大な影響がある場合(第8号)──が規定されており、いずれの場合も情報を開示しなければならないとされている。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。