第174回 台湾における「仮差し押さえ」について

65年の歴史を有し、2,000人近くの従業員を擁する復興航空(トランスアジア航空)は経営不振により財務状況が悪化したため、2016年11月末に予告なく解散を宣言し、台湾の社会に大きな衝撃を与えた。

メディアの報道によれば、トランスアジア航空の複数の債権銀行は、その債権の回収を確保するため、トランスアジア航空の所有する飛行機などの現存財産に対し、仮差し押さえ手続きを行っているところである。

仮差し押さえとは、債務者の財産を一定期間差し押さえ、かつその処分を禁止する意思表示であり、その法律上の根拠は民事訴訟法第522条第1項(「債権者は金銭請求または金銭請求に変更可能な請求について強制執行を保全しようとする場合、仮差し押さえを申請することができる」)である。仮差し押さえの主な役割は「債務者による財産の隠匿・散逸の防止」である。

なぜなら、債権者が訴訟方式で債務者に債務の弁済を請求する場合、訴訟提起から最終判決の確定まで、通常は1年から数年かかるため、債権者は確定勝訴判決を得るまで債務者の財産に強制執行(差し押さえ、競売などの手続きを含む)を行うことができない。その場合、債務者が訴訟手続き終了前にその財産を移転、処分してしまうと、たとえ最終的に債権者が勝訴判決を得たとしても強制執行可能な財産が存在しない全く意味のない勝訴判決になってしまう。

そのため、「仮差し押さえ」の手段を利用する必要があり、これにより債権者は訴訟手続き終了前に事前に債務者による財産の処分を禁止することができる。

裁判所に仮差し押さえを申請するときには基本的に以下の二つの要件に適合していなければならない。

1.債権者は「もし仮差し押さえが執行されない場合には、以後、強制執行が不能となる恐れまたは執行が極めて困難となる恐れが存在すること」を釈明しなければならない。この点について、実務においては、通常、債務者が財産を隠匿するか否かまたは財産を処分中であるか否かという事実などを判断の根拠とする。

2.債権者は担保金を提供しなければならない。担保金の金額は裁判官の裁量によって決まり、通常は債権額の3分の1である。

また、実務上、仮差し押さえの申請の許可率は20%未満であり、しかも裁判官の許可を得られるか否かは、申請者(弁護士)の能力・経験と大きく関係している。

よって、もし貴社が債務者に対し債権回収の問題を有している場合、十分な能力、経験を有する法律の専門家に相談し、最も有効な手段を講じるべきである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。