第175回 内容不実の広告に対する規制について

台湾の公平交易法は、取引秩序および消費者の利益を維持・保護し、公平な競争を確保し、経済の安定性を促進するために制定された法律であるが、事業者の独占、結合、通謀等の行為のほか、不公正な取引方法に対する規制についても規定している。中でも、内容不実の広告が消費者に与える影響は大きいことから、近年内容不実の広告に対する規制については、規制が強化されている。

具体的には、第21条において、次のように規定されている

  1. 事業者は、商品もしくはその広告において、またはその他公衆に知らしめる方法をもって、商品に関連し取引決定に影響を及ぼすに足る事項について、虚偽不実のまたは人を錯誤に陥らせる表示または表現を行ってはならない(第1項)
  2. 前項でいう商品に関連し取引決定に影響を及ぼすに足る事項には、商品の価格、数量、品質、内容、製造方法、製造日、有効期限、使用方法、用途、原産地、製造者、製造地、加工者、加工地、およびその他の誘致効果を持つ関連事項が含まれる(第2項)
  3. 事業者は前項の虚偽不実のまたは他者を誤認させる表示のある商品を販売、輸送、輸出または輸入してはならない(第3項)
  4. 前3項の規定は、事業者が行うサービスに準用する(第4項)
  5. 広告代理業者が、知りまたは知ることができたにもかかわらず、人を錯誤に陥らせる広告を制作またはデザインした場合は、広告主と連帯して損害を賠償する責任を負う。広告媒体業者が、その放送または掲載する広告が人を錯誤に陥らせる恐れのあることを知りまたは知ることができたにもかかわらず、放送または掲載した場合にも、広告主と連帯して損害を賠償する責任を負う。広告推薦者が、自らの推薦行為が人を錯誤に陥らせる恐れのあることを知り、または知ることができたにもかかわらず、推薦を行った場合は、広告主と連帯して損害を賠償する責任を負う。ただし、広告推薦者が有名人、専門家または専門機構に属しない場合、広告主から受け取った報酬の10倍の範囲内でのみ、広告主と連帯して損害を賠償する責任を負う(第5項)
  6. 前項でいう広告推薦者とは、広告主以外であって、広告中で商品またはサービスに対する意見、信頼、発見または自己の体験結果を報告する人または機構を指す(第6項)

上記のうち、特筆すべき点は第5項にある。

台湾においては常々、薬品、食品等の商品広告に有名人や芸能人が出ている。有名人や芸能人が広告に登場し、当該広告における商品またはサービスのために宣伝を行う場合、一般の消費者に対する影響はより大きくなる。そのため、このような広告内容に不実の事由があれば、社会大衆に対して及ぼしうる損害も、より大きなものとなる可能性がある。そこで、カナダ等の外国法規を参考に、事業者または広告代理業者に対して規制を行うほか、第5項により、広告に登場して商品またはサービスのために宣伝を行う有名人等に対しても、責任が課されることとなった。

同様の明文の規定は現在のところ日本にはないため、注意が必要である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。